コラム③ 私が体験したインターネット事件

まだインターネットのセキュリティがしっかりしていなかったころ、経験した事件です。最初の事件は、「あなたの研究室のパソコンからある国の軍事施設に不正アクセスがあった疑いがある」という連絡が来たことです。

自分たちのコンピュータが媒介されてハッカーに悪用されるといったことが起こりうるのです。そして、一瞬にして膨大な不正アクセスが行われる可能性があるのです。幸いその後、何も連絡がなく終わりましたが、インターネットの恐ろしさを実感しました。

次の事件は、「あなたの大学のホームページをやっつけたとハッカーが掲示している」と、政府機関から警察を通して大学へ連絡があり、そして大学から「そのホームページはあなたの研究室のものです」という連絡が来たことです。研究室のホームページにリンクしていた学生のホームページが書き換えられていました。

当の学生は被害を受けてしょんぼりしていたのですが、大学のなかでは彼が犯罪者であるかのように扱われました。私の管理責任も問われました。学生に対して警察の事情聴取まで行われて供述調書が作成され、被害を受けたパソコンを私が保管するということになりました。インターネットという、世界中に同時につながっている技術の危険な面を知ることになりました。

第Ⅰ部のまとめ

1. 技術の発展と社会構造の発展・進化

-1から-3に見たように、技術は一つ一つの積み重ねによって進歩し、それが社会経済のなかに取り込まれて、社会の構造が発展・進化しました。蒸気機関が動力源として工場に取り込まれ、工場生産が確立して資本主義が確立し、産業の連携ができるとともに、さらに資源の獲得、販路の拡大を求めて帝国主義へと発展しました。

一方、国内では資本家と労働者の台頭により、民主主義的制度が作られていきました。世界大戦を経て、世界的な規模で民族自立と民主主義の発展が進んでいる過程だとみることができると思います。

2. 総力を挙げたプロジェクトの威力

-4 のマンハッタン計画は、国家プロジェクトによって戦後に大きな負荷を残した核兵器の開発ですが、このような大きな目標の下に、総動員してチャレンジすることによって、実現の困難な課題を達成できる可能性を示したものでもあります。アメリカはこの経験を基に、アポロ計画やスペースシャトル計画を実現したように思います。

技術開発は目的を立て、その実現を目指して具体化を進めていくものです。総力を挙げて課題解決に立ち向かえば、当初は解決困難なものでも道が開けてくる可能性があるということを現代の課題に適用すれば、地球温暖化問題の解決や地球上から貧困をなくす課題、核兵器をなくす課題、そして平和的なITの活用の課題なども、解決に向かう可能性を示しているのではないでしょうか。

3. 技術の発展と人間社会の対応が求められる課題

技術の発展・活用と、それに対して人間社会が倫理やルールを作って対応しなければならない課題との対応を大まかに図表1に示します。技術や産業が拡大し、地球環境に与える影響が大きくなり、地球温暖化を防ぎ、生態系の保存を図る対応が人間・社会に求められています。自動車など活用が進んでいる技術も交通事故という未解決の問題を抱え、また前述の環境問題を起こす技術の一つともなっています。

このように技術が人間に危害を与える危険性の解決が常に求められています。そして、核兵器をはじめとする兵器や今後危惧されるITやAIと兵器、機械との結合は、技術の平和的利用を強く求めていると思います。

こうした技術の問題は、技術自身で解決するものではなく、人間社会がどのように技術を活用していくのかという、社会的なルールや倫理の問題です。技術に対して人間・社会の倫理・ルールが求められていると思います。

[図表1]技術の発展・活用と社会に求められている対応

4. 技術と社会は常に発展している

-6で示した流れを図表2に示してみました。IT技術の進展はめざましく、インターネットの世界での人間同士の情報交換、情報の活用、マネー決済などだけでなく、インターネットと機械をつなげた技術システム(人間だけでなく、あらゆる物がインターネットにつながった社会)へと発展しつつあります。このような次から次へとつながる技術の発展が新しい社会のつながり、変化を起こしています。

特に、インターネットやソフトウェアの発展が人だけでなく、世のなかのすべての機械と結びついた社会がどのような新しい進歩や課題を引き起こすかは予測しきれないところです。これからも変化を続ける技術と社会の問題に対して、人間社会として対応するルール、社会システムを構築していくことが強く求められていると思います。

写真を拡大 [図表2]情報技術の展開と産業の創出
※本記事は、2019年4月刊行の書籍『人と技術の社会責任』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。