【前回の記事を読む】恐ろしい…間隙に水が多いと「地震波速度」が速くなるワケ

第二章 社会に貢献する物理探査

二・一 地下は宝の山であり危険の巣でもある

本章では物理探査が使われている具体的な対象について事例を交えて説明します。物理探査が社会的課題の解決に貢献し、有効な対策を立てるために役に立っていることを示したいと思います。

私たちは、地下から石油や天然ガスあるいは金属資源など生活に欠かせない資源を得て利用しているだけでなく、地下街やトンネルなどの地下空間を作って便利な生活を送っています。地下は、我々にとってまさに宝の山といえます。これらの資源を探すために物理探査は利用されています。

一方、地下で起こる現象として地震や火山噴火など大災害に直結する自然現象や、豪雨時の洪水による堤防の破壊や地すべり、あるいは地震時の液状化といった生活の脅威となる危険なところが方々にあり、地下は危険の巣ともいえるでしょう。それらの災害の予測や対策にも物理探査は活躍します。

さらに、大雨時における堤防決壊の危険性や、ダム、トンネルの老朽化による内部の損傷を外から診る技術としても物理探査は使われています。また、地球温暖化対策として二酸化炭素を減らすための地下貯蔵や廃棄物処理場の管理など、環境問題にも物理探査は貢献しています。さらに人類の歴史を解明する遺跡の探査や、地球だけでなく月の探査にも役立てられています。

このように過去・現在・未来の人類の社会生活に貢献する物理探査についても具体的な事例を挙げて説明していきます。

二・二 大地震の発生場所を探る

日本は地震が多いといわれています。大きな被害を発生させる地震の規模を示すマグニチュードが六・〇以上の地震は、全世界で起きた回数のうち二〇%くらいは日本で発生しています。また、実際の地面の揺れの大きさを示す指標は震度であり、最大震度六以上の大地震が起こると、その周辺では大きな被害が発生します。なぜ日本では地震が多いのでしょう。

それは、日本がユーラシア大陸の東の縁にあり、太平洋と面した位置にあることが原因です。図は日本列島の断面を模式的に描いたものです。

[図] 海洋プレートの沈み込みに伴い、プレート上面境界で 起こる海底巨大地震や、活断層に伴う内陸地震の模式図。プレート上面が100kmより深くなるとマグマが発生し、それが地殻内を上昇して火山が形成されます。

東日本の場合、太平洋プレートが、日本列島を載せている大陸側の北アメリカプレート(東北日本プレートと呼ぶこともある)の下に年間約九cmの速さで沈み込むときに、大陸側プレートを押し、それに載っている日本列島に歪を与えることが直接の原因です。

プレート境界面に歪が溜まっていくと、あるとき突然境界面がすべって歪を解消します。このとき地震波が発生し、それが地表に届くと私たちはこれを揺れとして感じます。このような場所で発生する地震がプレート境界の地震です。マグニチュードが八を超えるような巨大地震は、ほとんどこのタイプです。

「平成二三年(二〇一一年)東北地方太平洋沖地震(以下、東北地方太平洋沖地震)」や、「二〇〇三年十勝沖地震」など最近のマグニチュード八以上の地震もこのタイプです。