この才気、伊達ではない

少年、ジン・スメラギというらしい、とリリアは、架け橋の一角に対面して座っていた。

自分の下に引き入れるため、交渉するリリア。一通り契約内容を説明し、さあどうかと返答を求めたところ、

「――断る」

「返答早くない!?」

にべもない答えが、即座に返されたのだった。

「な、何でよ!? そりゃ、結んでた契約無視して貴方を引き抜こうとしたのは悪かったわよ。でもそれ以上の条件出してるじゃない!」

ばん! と契約が書き記された紙を叩く。

仮のものではあるが、支払われる給金や待遇、そして住居の斡旋に至るまでそこには書かれており、かなりの好条件と言えた。が、それでもジンの反応は薄い。

呆れたように少年は肩をすくめた。

「それが俺にとっては余計なお世話なんだ。俺は近日中に隣国に行くつもりだった。あの人との契約はそれをするのに丁度いいものだったのに、君のせいで台無しにされたんだぞ。腹が立つのは当然だ」

憮然とした顔で言う。ジンの言う通り、元の依頼主は小切手に目が眩み――終始申し訳ないという顔をしていたが――契約を取り下げていた。

気まずさに口ごもるリリア。それでも一縷の望みを懸け、話を続ける。

「で、でもこの条件よ!? お給金よ!? 住まいだってついてくるし、この機にエムスエラに定住しちゃえーとか」

「ならないぞ」

しかしその話も、ばっさりと切り捨てられた。心なしか、ジンの不機嫌さが上がっているように思える。

こういった展開は予想していなかったリリアは考え込んだ。

傭兵などというものは大概が何かしらの事情で食い詰めた者、或いは戦いに身を投じざるを得ない者がなるものと聞いていた。そのため仕事の内容は一旦置いておき、給金と住居とで攻めれば簡単に落とせると思っていたのだが、彼にはそれが当てはまらないらしい。

近日中に隣国へ行きたいと言っていたことから、何かしらの事情があるのはなんとなく分かるのだが……

(軽々しくその話題に触れたらまずい感じがするし、気になるけど聞けない……!)