【前回の記事を読む】実家の弁当屋が「大手コンビニ」と提携チャンスも、家族大揉め

新たな挑戦の幕開け

右往左往しながら、東奔西走《三十五歳》

八月七日の午前七時、エンゼルスの広島一号店がオープンした。

前日の通常業務を終えて製造を開始したお弁当やおにぎりは、僅か三十坪の店舖に陳列できるのかと心配になるほど膨大な量だった。案の定、ひろしま食品と瀬戸内フーズの二社から届けられた山のような商品は、陳列ケースから溢れ、特製のボックス六台に保管された。

翌朝は、いつもより早く給食弁当の盛付けを済ませ、エンゼルスの商品の製造を開始し、何とか約束の時間までに届けることができた。

「たった一店舗で、こんなに忙しいなんて想像もしていなかった。今は、専務のお陰でエンゼルスの仕事を始められたことを心から感謝しています。ありがとうございました」

常務と二人で配達に来た恭平は、思いがけず殊勝な言葉を聞いて胸が熱くなった。

「一週間は開店セールだから注文も多いだろうが、その一週間の売れ残った商品は我が社の負担だから、大幅な赤字を覚悟しておけよ。そして、パートさんの確保を急がないと、このペースで店舗が増え、さらに忙しさが増したら、みんな辞めてしまうぞ」

そんな会話を交わしながら、商品を運んできた空コンテナを車に積んでいた恭平は、広島地区の初代MDの加藤さんに声を掛けられた。

「専務、ちょっといいかな」

「いいですよ。それにしても凄い量ですね。全部売れてくれたら嬉しいんですけど」

「そのことで相談があるんだよ。実は、瀬戸内フーズの中田社長から電話があって、予想していた物量と違い過ぎる。こんな状態では社員が持たないから、取引をやめさせてくれって言うんだよ。たった一日でギブアップだよ。どう思う」

「どう思うって、ちょっと無責任じゃないですか」

「そうだろ。取引を始めた初日に撤退だなんて、どう考えても無責任だよね。そこで、お願いなのだけどさ、瀬戸内フーズが担当しているハンバーガーを作ってくれない」

「えっ、ハンバーガーって、ひろしま食品は作ったことないですよ」

「うん、知っている。作り方は教えるからさ。三週間後の九月一日からハンバーガーを納品して欲しいんだよ」

「三週間後!」

「うん、まず、常務か誰かを、東京まで研修に行かせて。納品開始の際には、東京から指導に来させるからさ」

「それって、もう決めちゃっているんでしょう」

「うん、そうなんだよ。ゴメンね」

加藤MDの有無を言わせぬ強引さと調子の好さに加え、生産が追い付かぬというハンバーガーに惹かれて即決した恭平は、隣に立つ修平に命じた。

「そう言う訳だから、東京に行って、ハンバーガーの作り方をマスターして来い」

一瞬、常務の表情に浮かんだ動揺を無視し、恭平は加藤MDに向き直って告げた。

「折角、ハンバーガーを作るのなら、ついでにサンドイッチも作りましょうか」

「専務なら、そう言うと思った。ハンバーガーとサンドイッチの半分でも移管できたら、きっと中田社長も思い直してくれると思うよ」

三十五歳の同い年だからか、忌憚なくモノを言い合い、躊躇なく判断できる加藤MDに対して、恭平は相性の好さを直感した。