第Ⅰ章 看護について知る

3.『看護の基本となるもの』を著したヴァージニア・ヘンダーソン

『看護の基本となるもの(Basic Principles of Nursing Care)』は、1961年にヘンダーソンがICNのために著したものである。ヘンダーソン(1897~1996)の著書は1961年のICN第12回大会で紹介された後、12か国語に翻訳され、現在は20か国以上で読まれている。ヘンダーソンが記述した看護の機能を、ICNは看護の定義として世界の看護婦に提示したのである。看護の定義が求められた背景として説明されたのは、以下の2点である。

そこで看護婦たちは疑問に思ったのである。患者のために寄与する保健医療チームにおいて自分たちは何をもって彼に寄与するのか。他のチーム員はそれぞれの職種がもっとも得意とする守備範囲をもっている。看護婦は何でもこなすがそれらは看護婦にしかできない仕事ではないし、それらをするように訓練されているわけでもない。もっぱら訓練を受けたのは患者の身のまわりの世話についてであるが、それは補助職者にまかせる傾向にある。チーム員としての看護婦の独自の機能はいったい何なのだろうか。

他職種と比較して看護の機能を明らかにしたいというのは、専門職であるがゆえに独自性によって他との違いを認識し、看護職も自身の独自性によって立ちたいという思いの表れである。それは看護の職務内容が“患者の身のまわりの世話”であることから、治療法の発展や高度な医療技術の実施が患者の療養生活の変化につながり、身のまわりの世話よりも診療の補助の看護に時間が割かれるようになった。それが2点目につながる。2点目としては身のまわりの世話が過去の看護なのか、ということであった。

●総合保健医療の出発点が高度に進んだ科学的理論的医療であることは、療養する患者の世話をし、いたわるという看護本来の仕事の影をうすくした。

●このようにして患者のそばから遠のいた看護婦もまた、患者以上に、科学的理論的医療のために忙しくなっていたのである。

●看護婦は准医師になるのか、伝統的な看護はもう要らないのか。身のまわりの世話は過去の看護として専門職看護婦の手から去っていくのだろうか。

これらを踏まえヘンダーソンが看護婦の独自の機能として示した内容は、以下のとおりである。

看護婦の独自の機能は、病人であれ健康人であれ各人が、健康あるいは健康回復(あるいは平和な死)に資するような行動をするのを援助することである。その人が必要なだけの体力と意思力と知識とをもっていれば、これらの行動は他者の援助を得なくても可能であろう。この援助は、その人ができるだけ早く自立できるようにしむけるやり方で行う。

さらに、自立するためのやり方としては、「チームの全員がその人(患者)を中心に考え、自分たちはみんな第一に患者に“力を貸す”のであると理解している必要がある」とも述べている。

ここでは患者を中心にした、自立に向けた援助の必要性が示され、そして体力・意思力・知識の不足のために「“完全な”“無傷の”、あるいは“自立した”人間として欠けるところのある患者に対してその足りない部分の担い手になる」という看護婦の概念が示された。

不足という患者ニードの未充足状態から、ヘンダーソンの理論はニード理論といわれている。「基本的看護は人間の欲求の分析から引き出されるサービスであるという観点に立てば、それは普遍的に同一である」とし、基本的看護の14の構成要素を示した。14の日常生活行動は、基本的欲求に基づいた誰にも共通の物で、看護の援助が必要かどうかを14の側面から分析したのである。