教室へ戻っても、あだ名が『会長』になるわけでもなく、もてはやされるでもなく。秋休みの間に生徒会選挙はなかったことにされたのかと思うほど、何も変わらなかった。それまで教室の隅で、菅田の今日の給食メニュークイズに真剣に答えていた俺は、今も変わらず菅田と教室の隅にいた。

俺は生徒会書記としてのこの一年、成績は上位をキープし、生活態度も精一杯気を使った。冗談を言ったりふざけ合ったりするのは控えて、って元々得意じゃないけれど、誠実な人だと周囲に思われるように日々を過ごした。野球以外の球技はぱっとしなくても、足だけは(きた)えて運動会の選抜リレーの補欠に入り、他の競技だってクラスにじゅうぶん貢献した。

だから生徒会長に立候補したとき、「松岡なら納得」と言ってもらえ、選挙運動期間も「松岡に清き一票を」なんてありきたりだけれど、男子にも女子にも声を上げてもらえた。

が、結果が出ればそれでおしまい。生徒会選挙とは、各クラス一名ずつ立候補者が出るから皆、クラス対抗行事のような雰囲気を楽しんでいただけ。

そして聞こえたんだ、本当の声。

「松岡なら納得」ではなく「松岡でいいんじゃない」

そもそも自薦で手を挙げたの、俺だけだったしな。

「清き一票を」と声を上げていたやつらは、窓際で誰と誰が付き合っていると噂し、ロッカー前で名のない技をかけ合い、ルーズリーフに世界で一つの漫画を描いて、通学路で見たなんでもないものを十倍くらい大げさに話す。日常に戻ってゆく。俺が生徒会長になったって、世界は同じスピードで回る。もう誰も俺を見ていない。

「松岡、今日のメニューはジェスチャーで当ててね」

菅田がおかしなポーズをするので、思わず笑った。菅田といるととても落ち着くし、教室の隅だって嫌いじゃない。生徒会選挙というお祭りの中心にいたのは一瞬で、俺も元の居場所に戻っただけだ。

でも、思い描いていた生徒会長ってこんなだっただろうか。生徒会長という肩書は、俺を何も変えてはくれないのだろうか。