連日、報道されるワイドショーの献金疑惑のニュースで繰り返し、繰り返しあの人を見る。朝、起きるのが楽しくて仕方がない。

報道が過熱して取り巻きの取材人数は膨れ上がり、それに対応するためかSPは一人ではなく複数になっていた。

休日には部屋に閉じこもったきり、どこにも行かないのにあの人に会えた。今日は紺色のネクタイをしている。取材陣が自宅で待ち伏せするようになったので、あの人は要人の家まで迎えに行く。要人を丁寧に車に乗せて、自分は運転席で用心深く、黒塗りの車を発進させている様子まで見ることができる。

インターネットで検索を繰り返しているうち、議員に連れ立って海外に行った時の画像を見つけては、食い入るように見入った。

小学生の頃、お気に入りのアイドルグループのグラビアやグッズを、夢中で集めた時に似ているような気がした。コンビニのレシートを集めて応募すると仙台でのコンサートの入場券が当たる懸賞があった。

普段は高いからとほとんどコンビニを使わない母親に頼んで買い物してもらった。すると母は職場の人にまで声をかけたとか三十枚くらい応募して、当選したことがあったのだ。あの華やかなコンサートに連れて行ってもらうまで指折り数えて待っていた熱い気持ちを甦えらせていた。

ところが三週間後、ワイドショー番組を騒がしたその事件は、要人の突然の辞職で幕が閉じられた。

翌日から番組は手のひらを返したように芸能情報に変わり、万里絵があれほど楽しみにしていた「今日のあの人」の姿を見ることはなくなった。仕事から帰って、録画した番組に映っているのを楽しみにしていただけに、会いたい人に会えなくなったような残念な気持ちでいっぱいになった。

「わたしはちょっと浮かれ過ぎていたかな」

万里絵は自分に言い聞かせるようにつぶやいた。

うまいことがそんなに続くわけがない、自分で知っていたことではないか。今さら自分に心躍るとか華やぐ心とか、そんなことに縁がある人間だと思っていない。「飽きた」ことにすればいい。あれほど好きだったアイドルグループだって、いつの間にか熱狂が終わっていたではないか。そう、思えばいい、幸福であることをあきらめた時のように。

カレンダーは師走も半ばの日を示していた。

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※本記事は、2022年4月刊行の書籍『わたしのSP』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。