すぐにアフガニスタンの国境に着いた。ここでの入国手続きはとても面倒だ。まず国境でバスが止まり、バスの中に検査官が乗り込んできて一人一人のパスポートをチェック。それが終わると事務所に行って四枚の申請書を書かされ、荷物の検査。次が警察に行ってスタンプをもらう。この担当官はかなり威張っていて、こちらの態度がちょっとでも悪いと怒鳴りだす。

そして所持金の提示を求める。ここでまた、新しく何人かこのバスに乗せるとかで、しばらく待つ。やってきたのはメシェッドを十時に発ってきたという連中。われわれは七時半に発ったのに二時間半遅れの出発者と一緒になってしまった。なんということだ。

次が予防接種のチェック。これでやっと入国手続きが終わる。ミニバスはわれわれ各国の若者貧乏旅行者の十九人を乗せて、アフガニスタンの国境をようやく出発。もう暗くなりはじめてしまった。途中警察の検問所が何回かあり、そのたびにバスは止まって警官がバスに乗り込んでくる。彼らに袖の下を渡さないと時間をかけて乗客の荷物の検査をされるので、運転手がそっとお金を渡している。

何回目かの検問の後、突然バスの室内灯が点いてバスが止まる。バス代を払えという。ああそうかと思い、五十リアル払おうとすると、百リアルだという。さあ大変だ。われわれは百リアルを五十リアルに値切って、このミニバスに乗ったはずだ。だから当然百リアルは払わない。

このバスの乗客はわれわれ旅行者の十九人で、バス側は運転手と助手などの三人である。金を払わないんだったらバスから降りろと、屋根に積んでいたわれわれのリュックを下ろし始める。でもリュックは二個しか下ろさない。その後、最前列の座席に座っていた私を二人掛かりでバスからひきずり降ろそうとする。

後部座席の連中から「日本人! 空手で闘え!」などと無責任な声が飛んでくる。そんな馬鹿なことができるわけがない。第一私は空手ができない。連中は日本人は誰でも空手ができると思っているようだ。ブルース・リーの空手映画の影響だ。みっともない格好だが必死に座席にしがみついて降ろされないように頑張る。

そうしているうちに一台のトラックが通りかかって、それに乗っていたアフガニスタン人二人がバス側に加勢しだす。こうなると危険である。われわれ各国若者旅行者十九人に対して、バス側は五人だが、彼らは銃や蛮刀を持っているかもしれない。それにこんな真っ暗闇の荒野に置きざりにされたら、ヘラートまでどのくらいの距離があるのか、またどの方向なのかもわからない。

さらにしばらく百リアルを払え、払わないの押し問答が続く。いよいよ険悪な状態になってきた。結局こちらが折れることになり、百リアルか七十アフガニ(当時の交換レートではおおむね百リアル=八十アフガニ)で合意して支払い、バスはヘラートに向けて闇の中を出発。イラン国境で十三時に始まったヘラートまでのバス代騒動は、ヘラート着の二十一時までの八時間かかって、結局もとの通りの百リアルで決着したことになる。