【前回の記事を読む】病気を抱えながら息子を診察していた院長…突然の別れと後悔

縦の糸、横の糸

作業療法士の藤井さんと出会ったのは、月一回開催する家族会と並行して行われる当事者会「スマイル」と、先に書いた若者向けのデイサービス「フレンズ」でした。H院長が、他に先駆けて若者対象の早期治療を始められたのですが、その一環としての事業だったと思います。

社会との距離に戸惑う二男たちを、作業を通して近づけようと考えてくれていました。一人は仲間のために、仲間は一人のためにというような温かい雰囲気がありました。

病院で開かれるお祭りに、メンバーも参加することになりました。一年目は、新美南吉の『手袋を買いに』という童話を紙芝居にしたものでした。みんなで書いた優しい色合いの作品が体育館に並んでいましたが、私は「それを持って子どもたちに読み聞かせに行く」というその後の行動に、もっと心打たれました。

二年目は、みんなで歌を歌うことになりました。二男に曲紹介と伴奏を頼むと聞いたとき、二男は人前で話せませんでしたし音楽というものを捨ててから全く接していませんでしたので、迷惑をかけないかと私は藤井さんに相談しました。

「配慮します。でも潤君は大丈夫だと思っています。僕は当日の出来栄えよりも当日までの過程を大事にしているので、リーダーの役目とかトラウマの音楽に向き合うことで、潤君が一つ乗り越えられることが大切だと思っています。そんな支援をしますのでいいでしょうか?」

電話の向こうで、藤井さんは明るく答えてくれました。

馬よ! 背よ! 時空を超えて朗らかに揺れてステップ踊れギャロップ(初めての乗馬体験)