合気道の神様

結衣は真丸幼稚園に通いながら成長していた。幼稚園ではいつものように友だちの山之内喜久や野崎美緒、丸川咲楽、橋本宇多、仁、清、恵子、舞が教室の隅に集まり頭を寄せ合い話していた。

「ねえ、この頃、なんか変な人がいるの、なんだか自分は合気道の神様だって言うのよ、お母さんと道を歩いていたら急に話しかけてきたの」

結衣が皆の方を見ながら言った。

「え、神様、なんか願い事かなえてくれるのかな? 美味しいものをくれるとか?」

清は食べ物のことを考えていたようだった。

「もう、キヨちゃんは食べ物のことばっかり、この前も稽古の前にお菓子を食べて先生に叱られたでしょう? 気を付けて」

几帳面な恵子が清を注意した。清は頭を掻きニコニコ笑っていた。

「もう、笑って誤魔化さないの、ジンちゃんなんとか言ってよ、この前も稽古の時に途中で逃げ出したしね」

結衣が笑いながら仁に言った。

「僕に言われてもね、キヨちゃんだから、でも神様ってなあに? なんだか変な感じだよね、危ない人じゃないのかな?」

仁は首を傾げながら笑っていた。

「犬のピーターに聞いたら、兎のチャッピーと猫のたあまも知ってたよ。でもなんか危ない感じがするから気を付けるようにって言ってたわ」

結衣はセントバーナードのピーターからの伝言を皆に伝えた。

「きっと変な人よね、皆でやっつけないとね、少しでも世の中を良くしないと」

舞は腕を振り上げ投げるポーズをした。

「危ないわよ、近づかない方が良いんじゃないかな?」

咲楽は不安なようだった。

「お父さんとかにも相談してみるから、危ないことしちゃだめだよ」

宇多は父親の橋本総理に相談するつもりのようだった。

「先生にも言わないと。でも私たちが一生懸命やってることを馬鹿にされたみたいで本当に頭にくるわね」

美緒は気を悪くしているようだった。子供たちなりに思い悩んでいるようだった。

【前回の記事を読む】「人間としての基礎をつくりたい」合気道を子供たちに学ばせる意義

※本記事は、2022年3月刊行の書籍『ゆいとじじの物語 合気道のこころと命をつなぐもの』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。