サーマンは三人に、

「おい、引っ張ってくれ」

と偉そうに言い放った。

三人は手を伸ばすサーマンを渾身の力で引っ張った。その巨体が柵を乗り越えようとした時、三人は手を放した。すると、勢いよくサーマンの巨体は再びネットへ転落し120キロの巨体はそれを突き破り谷底へと落ちていった。

三人は恐る恐る谷底を覗き込むと、川辺にサーマンが落ちていた。そこへ7メートルはあろうか、大きなワニが水中からまるでミサイルでも発射したかのようにまっすぐサーマンへとかぶりつきその大きな体をひと飲みにしたのだ。ワニの目は大きく見開きあたかも満足した形相でペロリと舌を出して水中へと消えた。

ワニは水面を泳ぎながら大きな口を開けた。その牙にはサーマンのジャンパーが刺さっており、まるで旗を振るように進んでいった。

暫くするとミルキーが現れ、三人の様子を窺い崖下を覗き込んだ。そこのネットにはサーマンのかぶっていた帽子が乗っており、そばにはウイスキーのボトルが落ちていた。そして三人を睨み付けると、

「サーマンは落ちたの?」

三人は大きくうなずいた。するとミルキーはなぜか安堵した顔をして、警察へと通報した。

警察の事情聴取には三人とミルキーも立ち会った。警察の判断は、酒を飲み誤って転落した事となった。その時もミルキーは安堵した顔をし穏やかに立っていたのだ。

翌日、街の教会でサーマンの葬儀が行われた。その棺は巨大でゆうに2メートルは超えており、まるでサーマンの死を待っていたかのように横たわっていた。

棺の中は愛用の帽子がポツンと入れられており、あとは花で埋め尽くされていた。葬儀といってもミルキーと子供達だけの簡素なもので棺は郊外の墓地に埋葬された。葬儀の席で、誰一人涙する者はいなかった。

サーマンがいなくなって、ボブ達も暴力を振るわれなくなり、ウイスキー代に消えていたお金で、ミルキーも少しはいい食事を子供達に出す事が出来た。今までは、裏の畑でとれるジャガイモばかりで、めったに肉なんか食べられなかったが、美味しいお肉も食べられるようになり、日々の暮らしも楽しく過ごせるようになっていった。

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※本記事は、2022年2月刊行の書籍『ミスタープレジデント』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。