十四年にわたる長い旅を終えた孔子は、弟子たちに言いました。

「何はともあれ、言葉や態度はつねに謙虚で控えめなことが大事だな。そして、おおらかで優しい心を持ち続けること。おおらかで優しい心を持つと、人々から愛されるものだ。誠実さと正直さによって人から信頼されるように努力すること。嘘をつくのは一いちばん番良くないことだ。そして、言葉だけでなく実際に体験するための勇気と行動力を持つこと。自分が金銭的に成功したとしても、それを自分のためだけに使うのではなく、困っている人や、世の中をより良くするために、できるだけ、その富を他者に分け与えること。

これらの五つのことが実践できれば、必ず仁の心が身につくはずです。人として正しい道を志し、身につけた徳を実践し、仁の気持ちを大切にしながら、自分の教養を高めていくのが理想の生き方だ」

「わたしは十五歳で学問の道を志しました。三十歳で念願だった塾を開き、生徒を集め、一人前の大人として人生を歩み始めました。四十歳の時には、迷うこともなくなり、仁の道を究めることに、ゆるぎのない自信と信念を持つにいたりました。五十歳で天から与えられた使命だと感じるようにすらなったのです。

六十歳になってからは、人からの意見や周囲の声にも、素直に耳を傾けられるようになりました。そして七十歳になって、自分の思うままに自由に振る舞っても、若い頃と違って、人に迷惑をかけたり、行きすぎたり、一線を越えるようなことがなくなったのです」

「世間では、私のことを聖人とか、まさに仁の心を持つ人だと呼んでいます。しかし、私は、まだまだそこには至っておらず、聖人はおろか、仁の心を究めるには至っていないし、自分自身に満足してはいないのです。しかし、聖人を目指し、仁の心を究めたいと願って、つねに学び、つねに努力してきました。そして、学んできたことを、周囲の人たちに教えてきただけなのです」

「このように話すと、仁というのは、とても遠くにあって手が届かないように思うかもしれないけれど、しかし、まったくそんなことはないのです。自分が人徳者になろうと志して、徳を磨く努力さえ怠らなければ、それはすぐに実現できるものなのです。自分がそうなろうと思うかどうか、徳を磨こうと思うかどうかだけなのです。すべては自分の気持ち次第なのです」

※本記事は、2021年11月刊行の書籍『孔子に学ぶ「五常の教え」』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。