簡単な言葉を話すようになったホモ・エレクトス

ホモ・エレクトスの胸骨には、発声機能が発達していました。二五〇万年前のアウストラロピテクスの胸骨の形はまっすぐですが、ホモ・エルガステル(初期のホモ・エレクトス)の胸骨は膨らんでいます。

発声機能の基本である呼吸を調節するための神経は、ホモ・エルガステル以降に発達したと考えられています。人間の脳のなかでも言葉を発するときに活動する場所は、二つあって、一つは小脳、もう一つは大脳の前頭葉です。人間の言葉はきわめて複雑な運動機能で制御されています。

肺で呼吸し、声帯を振動させ、さらに口の筋肉を微妙に調整する必要があります。こうした発声機能をコントロールするために、人間は、他の霊長類に比べて小脳が発達しています。

二〇〇万年前のホモ属の頭骨化石の小脳部分は、類人猿に比べて拡大しており、この年代から少なくとも発声システムを身につけていたと言われています。

そして、脳の大脳皮質・前頭葉の活動ですが、この部分は類人猿からヒトへの変化において、脳がもっとも拡大した部分です。この前頭葉は言語の基本となる記号化を担当しています。

記号化とは、ものごとを置き換えて認識する力と言えます。たとえば、イヌを見たときに、イヌと言う記号(言葉)をあてはめて認識し、反対にイヌと言う記号(言葉)を聞いて、イヌの姿を思い起こす能力であります。前頭葉の発達が、記号と記号を結合して文章をつくりだす言語能力につながったと言われています。一度このシステムが出来上がると、脳と言語はお互いに影響しあって進化します。

脳は、言語に合わせて記号化の神経網を発展させ、そして言語は脳に、より適した形に変化していくというのです。つまりお互いに影響しあって、脳と言語能力は進化してきたのです。

いずれにしても、人類は、ホモ・エレクトスの時代から、簡単な言葉を話すことができるようになったと考えられています。これがホモ・エレクトスの脳容積を急増させた理由の一つでもあったのです。