「おれだけどいるよね」と家へ上がりこむと、茶の間の入り口に妹が立っていた。昨日のおれ以上の驚きようで、言葉も出ずただ口をパクパクとさせていた。

「あれ、何? おやじさんから何も聞いてないんだ。じゃああとで聞いといてよ」

「全然何にも聞いてないし、いつパパになったのよ~」

ばかばかしいことを言う妹をよけ、茶の間に入るとおやじさんはいつもと何も変わらずテレビを見ていた。

「おう、散歩がてら来たぞ」

そう言うとおれはさっさと華ちゃんを降ろし、おやじさんへ渡した。

「華ちゃんやっと来まちたか~♡」

おやじさんは本当に嬉しそうに、ただのお爺ちゃんと化していた。だがすぐにおれに向かってこう言い放った。

「おまえ、何も持たずに来たのか!? バカ野郎もう一回帰って家からオムツの替え数枚と尻ふき、ミルク入れと哺乳瓶とガーゼと着替えセット持って来い」

そう優しい声で怒られた。おれは渋々元来た道を今度は一人早歩きで戻り、荷物を持って再びおやじさんの家に戻って来た。

「赤ちゃんや小さい子供との外出はな、ほんの少しの間でも手ブラでなんか出掛けられないんだぞ。おしっこやウンチがもれて着替えさせたり、オムツ替えも自分のトイレよりまめに見て替えてやらなきゃならんのだ。だからなんだかんだと大荷物を持って出かけなきゃならないんだ。必ず財布や鍵と一緒に華ちゃんのお出掛けセットを持つんだぞ、忘れるなよ」

また教わった。子供と出掛けるって色々大変で気を回さないといけないんだと知った。

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※本記事は、2021年12月刊行の書籍『君と抱く/夢想ペン作家日和』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。