【前回の記事を読む】脳の中で情報処理はどう行われているか…複雑な知覚の仕組み

コラム 神経細胞とシナプス

脳の主要構成要素である神経細胞は、細胞体(さいぼうたい)樹状(じゅじょう)突起(とっき)軸索(じくさく)を有する(図1)。

写真を拡大 [図1]神経細胞の模式図。神経細胞は細胞体・樹状突起・軸索からなる。樹状突起と細胞体でシナプス入力を受け、軸索で活動電位による情報伝導が起こり、軸索末端のシナプス前部から他の神経細胞へと情報を伝達する(参考文献1)。

細胞体は核を含む神経細胞の本体である。樹状突起は細胞体から何本も出る突起であるが、細胞体近傍で何回も枝分かれする短めの突起で、細胞体近傍では太いが先端に向かって細くなっていく。そして、興奮性の神経細胞の樹状突起上には、(きょく)突起(とっき)(スパイン)と呼ばれる小突起が多数存在する。軸索は細胞体から一本だけ伸びる太さがほぼ一定の長い突起で、細胞体から離れた位置で枝分かれする。

細胞体および樹状突起は、神経細胞における情報入力部位である。棘突起を含む樹状突起や細胞体上に、他の神経細胞の軸索がシナプスを形成する(図2)。樹状突起などに形成されるシナプス後部には、神経伝達物質受容体が局在する。

一方、軸索は活動電位と呼ばれる一過性の電気信号を細胞体から先端へと伝える。細胞内は通常細胞外に対して50~100ミリボルト負の電位を示すが、その細胞内電位が1ミリ秒くらいの間逆転して30ミリボルトくらい正の電位になる現象が活動電位である。軸索先端部はシナプス前部となり、他の神経細胞や筋細胞などにシナプスを形成して、そこに活動電位が到達すると、シナプス小胞中の伝達物質をシナプス後部へ向けて開かい(こう)放出(ほうしゅつ)する(図2)。

写真を拡大 [図2]シナプス伝達。シナプス前終末に活動電位が到達すると、カルシウムチャネルからカルシウムイオンが流入し、それが引き金となって、シナプス小胞内の伝達物質がシナプス間隙にむけて開口放出される。伝達物質は、シナプス後膜上の受容体と結合して、受容体に内在するイオンチャネルを開き、シナプス後部で興奮性シナプス後電位(EPSP:Excitatory PostsynapticPotential)または抑制性シナプス後電位(IPSP:InhibitoryPostsynaptic Potential)を引き起こす(参考文献1)。

シナプス後部の受容体に伝達物質が結合すると、シナプス後部では細胞内の電位が変化する(シナプス(こう)電位(でんい))。シナプス後電位は細胞体で統合され、その入力が十分な大きさに達する(活動電位を発生することのできる値に細胞内電位が達する)と、軸索の起始部で活動電位が発生して、それが軸索終末まで伝わり、次の神経細胞へシナプス出力をする。このように神経細胞は情報伝達を行うことに特化した細胞である。


参考文献1:『何のための脳? AI時代の行動選択と神経科学』平野丈夫著、2019、京都大学学術出版会