「そんで、こないだ、ミナミの安キャバレーでその監督が、『今使ことる産廃業者がアカンよって、どっかええとこないか?』と、おっさんに相談しょったらしいねん。要するにそこは渋うて袖の下を出さんらしい」

ひと息ついて、私は浅井に顔を近づけた。

「そんでや、どっちみちオマエが清子から手を引く気があんねんやったら、その代わりや言うて、オマエの身内の業者を義和のおっさんからゼネコンの監督に紹介させる、交換条件や。そこは俺がちゃんと話しをつけたるよって」

「そんなことでうまいこといくんか?」

浅井は疑わしそうに私を見た。

「あんな無茶苦茶なおっさんでも、清子は一人娘やよって可愛いいてしょうがない。オマエがほんまに金輪際清子に手を出さんと約束すんねんやったら、絶対うまいこといく。どないや?」

「わかった! どっちみち若頭に釘刺されとるよって、ええやろ」

少し思案したあと、浅井は腹を決めた顔で私に告げた。

「よっしゃ、決まりや!」

私はビールで喉を潤して、話そっちのけで一人飲み食いしていた進に話を振った。

「それから進よ、オマエとこの裏の田んぼ、あれはどこが買いにきよったかいなぁ?」

「あれか、あれは大都や。もう五千坪ほどその奥の土地を買い占めとるらしいで」

「五、六千坪以上の大型開発やよって、幹線道路に充分な幅の進入路がないと許可が下りん。そやから、オマエとこの田んぼが絶対必要やいうことはガキでもわかる。最初反対側の道路で計画したらしいけど農業用水路を(また)ぐやろ、あの水路は暗渠にできんらしい。もしできるとしても、農業委員会の同意やらでけっこう時間がかかる。そやから進とこの田んぼを進入路として喉から手が出るくらい欲しいんや」

「正ちゃん、えらい詳しいやんけ」

「これも溝口土建の専務に聞いたんや。あそこかて地元の工事は取りたいよって、情報集めとる」

「そやけど、ウチの親父は絶対売らへんで。先祖からの田んぼをもうこれ以上ワシの代で減らされんてずっと言うとるよって」

「そやからや。オマエとこの横の満さんの田んぼ、あれやったら、オマエとこの田んぼより大きいしええで。満さん、今度新しくできた短大から学生寮の話がきたさかい、建築資金の一部に充てるために売るかもしれへんで。俺話したる」

「全然意味わからへんがな」

「あのなぁ進、満さんの田んぼとオマエとこの田んぼと等価交換してもらうねん。オマエとこには税金もかからんし、田んぼも広なる。どや進、親父にすぐ話してみい」

「えらい話になってきたやんけ」

浅井が嬉しそうに言った。

「もし話がうまいこといったら、大都のゼネコンの下請けに溝口土建も入れてもらえるし、生コンや型枠なんかもオマエが業者を連れて来たら、ちょっとは仕事もらえるで」

二人は目を輝かしながら私の話に聴き惚れ、頷いた。