第一章「着信」

カーテンの隙間から明るい光が差し込む。

「……朝、か」

今日も梅雨にしては珍しい晴れの日のようだ。いつもだったらすぐにカーテンを開けて清々しい日の光を部屋に取り込んで、朝にはめっぽう弱い彼女に「おはよう」「そろそろ起きて」と優しく声をかけるのに、今僕の隣には誰もいない。

一人には広すぎるベッド。いつものように僕の定位置だった壁側に横になって、眠れたのか眠れなかったのかわからないまま朝を迎えていた。今日は日の光さえも疎ましく、その光を見ていると頭が割れそうに痛くなる。明るい世界にいるのが耐えられなくなって、僕は再び布団の中に潜り込み目をきつく瞑る。

『雪野雫さんは昨日の十九時過ぎ、刃渡り二十センチほどの包丁が腹部に刺さった状態で駅前にある歩道橋の階段下で倒れていました。通行人の通報で駆け付けたのですが、病院に到着したころにはもう息はなく手遅れの状態でした。帰宅ラッシュの時間で人通りは多かったのですが、争った形跡もなく階段から落ちる直前に何があったのか目撃した人も今のところ見つかっていません。刃物には犯人と思われる指紋も残っていなかったので捜査は難航しそうです。心当たりがありましたらすぐに連絡をください』

昨日は頭の中が真っ白になって耳に入ってこなかった言葉が、一晩がたって徐々に思い出されていく。雫の死の真相は何もわかっていないということだ。

──通り魔?

──それとも雫に恨みを持って?

──いや、彼女のように穏やかで争いを好まない人に限ってそんなことはあるはずがない。

──じゃあどうして雫が狙われた?

心当たり、その言葉にふと大学四年生のときの事件が頭をよぎる。あのとき雫の家族の命を奪って今もなお見つかっていない犯人が五年もたった今、雫を狙っていたというのだろうか?

怒り、恨み、悲しみ。一言では表せない感情がぐるぐると頭の中で渦巻きながら、冷たくなってしまった彼女の頬に触れたときの感触が鮮明に呼び起こされる。あんなにも柔らかくて、暖かくて、愛情に満ちあふれた彼女が、まるで作られた人形のようにぴくりとも動かなくて、怖いとさえ感じてしまった。僕の知っている彼女はもうこの世からいなくなってしまっていた。

夕方に電話してからたった一時間の間に、どうして彼女はあんなにも変わり果てた姿になってしまっていたのだろうか。働かない頭でいくら考えを巡らせても、何一つわかるはずもない。

思考とは関係なく、ぼろぼろとこぼれ落ちる涙をぬぐう気力さえも湧かない。会社に事情を伝えて休むと連絡をしなければと一瞬頭をよぎったけど、今はもう何もできる気がしない。

どうして彼女には常に不幸が付きまとうのだろう。彼女がいったいこれまでに何をしてきたというのだろう。家族と一緒に食卓を囲んでたわいのない会話をしながら笑って過ごす。そんなありふれた幸せが、どうして彼女の手のひらからはすり抜けていってしまうのだろう。

布団の中で再びぎゅっと目を瞑る。