南田は何ごともなかったように、

「いやいや、私の話なんか時間の無駄です、どうぞ続けて」

と席に着いた。カマキリはそそくさと壇上を降り、次に一課長が上がった。

「皆さんお疲れ様です、これまで判明していることをお伝えします。今の段階での先入観は厳禁なのはいわずもがなですが。まず被害者は北川玲奈・25歳、独身。福岡通信社の報道部の記者です。警察担当で主に福岡市内署と県警本部担当、入社3年で今年4年目に入った若手です。

自宅は事件現場からわずか300メートル程先にあるワンルームマンション。実家は佐賀市鍋島町で両親は健在みたいですが、電話連絡がつかないので今署員が自宅へ向かっています。詳細はこれからです。現場付近では鑑識活動と併せて聞き込みやビデオの捜査中です。すべてこれからです、検視官何かありますか?」

吉岡はその場で立ち上がって説明した。

「解剖は調整した結果、九大の先生が東京出張で不在のため、北九州総合医大で明朝一番に実施します。死亡推定は昨晩の深夜ごろと思われます。雨で身体が冷え切っており体温は信頼できませんが、眼瞼の混濁からの推定です。これから聞き込み、ビデオ捜査で詰めていきます。

死因は明日出ますが、外傷と出血の量から出血性ショック死の可能性が高いと思われます。胸骨の剣状突起付近から上に突き上げるように刺されています。他に表見的な外傷は見られません。ほとんど意識がないまま出血して亡くなっている所見です。以上です」

刑事の会話で交わされる“ビデオ”には、防犯カメラ本体、そのビデオ映像、更には映像を解析した結果などを含む幅広い意味がある。

壇上には、署長、署の刑事管理官、県警本部は刑事部長、捜査一課長、一課広域管理官、鑑識課長等の幹部が座り、会議室には豊永班の数名を始め、他の特捜員が10名、署の刑事課員で一時的にかき集められた10名程が顔を揃えていた。

ただ、これから署の各課から応援が来るので、最終的には50~60人程の人員となる予定である。

【前回の記事を読む】2枚のまるで違う遺体の写真…「共に死後4日」でわかる死亡時間推定の難しさ

※本記事は、2022年2月刊行の書籍『TEAM P 捜査一課特捜本部事件録』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。