蕨のある所から舗装された道路まで戻り、その道を徒歩で十分程、くねくねと下っていくと、村上家の別荘があります。

この別荘も、先代から受け継いだもので、築三十年位になります。数ある区画の中の一区画で、五百坪程の広さの土地に、五十坪の平屋の建物で、この別荘地の中の一番端の山並が見える、谷の近くに位置しています。

別荘の入口には、左側に元々自生していた櫟の大木があり、右側には金木犀が後に植えられ、門の代りとなっています。櫟と金木犀の間にはコンクリートの緩やかなスロープが玄関口まで続いています。玄関からスロープを下り、金木犀側を家に沿って角を曲がった方向が南側です。

南側の此所は、大雑把な花壇となっていて、この地に自生していた、ギボウシ、万両、山百合、杜鵑草(ほととぎす)金蘭(きんらん)、吾亦紅、蔓竜胆、苧環(おだまき)(さらし)()(しょう)()(ほたる)(ぶくろ)(ささ)百合(ゆり)、などが不規則に植えられています。春は金蘭、夏に笹百合、秋に吾亦紅、花が少なくなった晩秋の哂菜升麻は特に美しい花です。日蔭には(ふき)も自生しています。

樹々は柿の植えたものが多く、()(ゆう)(がき)次郎(じろう)(かき)(ふで)(かき)黒柿(くろがき)などで、丹波(たんば)(くり)やぐ萸みなどの他に、自生する山栗、(さかき)、などが間を置いて植わっているのでした。

門の替わりとなっている櫟は(どん)(ぐり)の仲間で、実も大きく帽子も面白く、私のお気に入りですが、夏には鍬形(くわがた)(むし)が、葉の多く繁った高い場所に数多く隠れていますので、私よりも透君が楽しみにしていた樹でした。

入口のスロープには木製の手摺が付いているのですが、此所に七節(ななふし)(むし)尺取虫(しゃくとりむし)など様々な虫が、家の裏の藁が重ねてある下には甲虫(かぶとむし)と、透君は飽きることがなかったでしょう。

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※本記事は、2022年2月刊行の書籍『あの空の彼方に』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。