事業活動はあざなえる縄の如し

開業して、4~5年過ぎたころ当時使っていたMTXというリウマチの特効薬の効果が予想以上に良くなってきた。投与量を増やし、我々がその薬剤をうまく使いこなせるようになったが故である。

加えて1998年頃、たまたま目にした英文ジャーナルにTNFα抗体がアメリカのFDA(食品医薬品局)を通過し、患者に使用できるようになったという記事を目にした。その効果は劇的で、患者のリウマチ状態はかつて経験したことのないほど改善し、かつ骨破壊を防止するどころか修復までするとの記事であった。

治験段階で、学会、医学ジャーナルには関連情報が流されず、我々はその存在を知らなかったわけである。まさに青天の霹靂であった。それを契機に関連情報が次々と報告されるようになり、MTXの効果は良くなる上に、関節リウマチ治療にパラダイムシフト(革命的変革)が起こり、関節リウマチが治癒するとの情報が一気に噴出してきた。2000年前後のことである。

患者さんにとっては大変な朗報である。しかし、10人近くいた入院予約待機者はそれを契機に減り続けたが、借入金は大部分残っていた。私自身深刻な危機感を覚えた。2~3年は猶予がある、病院が元気なうちに何か新しい事業をはじめねばならないと考え、日夜思いを巡らせる日々が続いた。

遡ること2~3年前のある日の午前中、病室の詰所の窓から外を眺めていると3台の大型バスが列をなして西条インターより、市内に入ってきているのを目撃した。観光バスではない。看護師を呼んで、あのバスはなんだと聞くと、「広島市内の健診会社のバスです。よくこの前を通ります」という。

この時はああそうかという思いで聞き流していた。病院があまりに忙しく他のことに気を回すゆとりもなかった。またその必要もなかった故である。


パラダイムシフト:その時代や分野において当然のことと考えられていた認識や思想、社会全体の価値観などが根底から変化すること。

※本記事は、2021年9月刊行の書籍『心の赴くままに生きる 自由人として志高く生きた医師の奇跡の記録』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。