地上探検隊が、水の痕跡が残るこの地上絵の近くの扇状地に、水資源調査に行くことになった。そのついでに地上絵の正体をつかもうと、まるでピクニックに行くかのように皆うきうきした気持ちで出かける。

火星時間4月17日朝8時15分。「出発するぞー」とケン隊長が声をかける。

火星の自転周期は地球とほぼ同じ24時間強であるので、作業スケジュールも実に立てやすい。

地質学者のアヤ、医師で宇宙医療士のソヨ、パイロットで探検隊長のケンの3名がドローンのような飛行バスケットBKワンに乗って現地に向かう。

ケン隊長が「アヤ隊員、火星人が作った地上絵をどう思う?」と尋ねる。

「そうね。私ナスカの地上絵をまだ見たことがないの。ナスカの人たちがなぜあんな絵を描いたのか知りたいもんだわ。火星人が本当にいたんだったら大発見ね」と笑いながら答える。

ソヨ隊員が「きっと何万年も前に宇宙のどこかから来た宇宙人が、ナスカの地上絵と同じように火星にも残したに違いないわ。私たちが第1発見者として歴史に名を遺すことになるわね」と、大笑いをしながらはしゃぐ。

ケン隊長が「火星にその昔、火星人がいて高度な文化を作っていた、なんてこと生物学的に考えてあり得ないことだと、今では常識になっている。確かにそれは疑いのないことだと思うが、ぼくははるか遠くの星の宇宙人がこの太陽系に来て、地球観測の前進基地にしていたという考えには賛成だな」と宇宙人説をいう。

地質学者であるアヤは真面目に答えるケン隊長の会話に「隊長、宇宙人がこの太陽系に飛来して来たとして、どうして火星に基地を作らなければならないのですか」と、疑問を投げかけると、

ケン隊長は「それはですね。簡単には地球に上陸できないからですよ。地球にはすでに生命が生まれていたなら、彼ら自身が地球の生命、特にウイルスみたいなものに感染して病気になったり死んでしまう危険が伴うからね。また逆に彼らが持っている細菌やウイルスなどが、地球上で進化を始めた生命を、全滅させてしまうかもしれませんからね」

ソヨ隊員は「そうですよね。目に見えない細菌などが生命体に与える影響を調べてからでないと、簡単には異生命体には近づけませんね」と、医者としての見解を述べる。BKワンの中で冗談と本音がロマンをふくらませる。

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※本記事は、2021年12月刊行の書籍『リップ―Rep―』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。