校長選考、一発合格 ~折角つかんだチャンス、()してなるものか~

副校長として、赴任してから3年目の年、校長選考に合格し、翌年異動することとなった。着任時、校長が私に最初に言った言葉、それは「こんなところに、いつまでもいるんじゃない。最短の3年で駆け抜けろ」〈注1〉だった。その教え通りとなった。

校長選考合格発表の日、校長の携帯電話から、合格の連絡が入った。校長は、まさか私が一発で合格するとは、ゆめゆめ信じていなかったようで、すごく驚いていらした感じが伝わってきた。副校長選考の時は、数回の失敗を重ねたうえでの合格であったので、私自身も「まさか」と思った。

ただ一次選考(論文)が通った時、なぜか二次選考の面接は「絶対にものにしなければならない」「折角つかんだチャンスを逃してなるものか」、そういった思いがとても強かった。そして「チャンスをものにできるか否かで人生は決まる」と自分に言い聞かせていた。よって、一次選考よりも、二次選考の方が自分に火がついたように真剣になっていた気がする。

それは、有能な先輩たちが、一次を何回も通過しながら、なかなか最終選考に勝ち残れない姿を何度も見てきたからに他ならない。そんな訳で、一次はさほど力が入らなかったが、二次は用意周到に、“どこからでもかかってこい” 、といった感じで万全の準備で臨んだのだった。

面接当日は、先輩のアドバイスを受け、栄養ドリンク2本を一気飲みし、目をギラギラさせ、胸ポケットには、神社とお寺の2か所のお守りを左右に忍ばせ、下着は勝負色の真っ赤なパンツを身に着け、ことと次第によっては、面接官と刺し違えるぐらいの気合で臨んだ。

そして、1時間前には、面接会場に到着し、近くの喫茶店に入り、ブラックコーヒー2杯を立て続けに飲み干し、煙草を10本位吹かし、ギラギラ感丸出しで面接に臨んだ。校長からは、論文指導等、さして特別な指導を受けた記憶はなかったが、面接に臨む際に、一言アドバイスをくれた。それが私にとっては、とても貴重な助言となった。

校長曰く「面接は、ドアをノックし、部屋に入ってから面接官に挨拶し、指定された椅子に座るまででほぼ決まる。後は流れに身を任せろ」と。

どんなに賢い受け答えをするよりも、肝心なのは、一校を預ける、任せるにふさわしい校長としての“凜とした姿が見せられるかどうか”、教職員や保護者、そして地域住民などへの対応を“この人はちゃんと上手くやっていけるのか”、そんな観点から、「椅子の座り方一つにも気をつけろ」、とのことだった。


〈注1〉 当時、都の規定では、副校長3年目から校長選考の受験資格が得られ、合格した際は、原則、翌年度に異動となることになっていた。

※本記事は、2021年10月刊行の書籍『ザ・学校社会 元都立高校教師が語る学校現場の真実』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。