第三話 熱い石ころ

明夫は日曜日のきっかり午後一時に常雄の家に着いた。母親が店先にいた。

「常雄君いますか」

彼女は黙って奥へ入った。夕方になれば来るのだろうが、今は客は一人もいない。明夫は店に並べてある品物をゆっくり眺めることができた。五分も待った頃、上半身裸の常雄がのっそりと姿を現した。

「よお、行くか。支度してくる」

そう言い捨ててまた奥に入ってしまう。あまり悠々としているので約束のあったことを忘れていたのではないかという気がしたが、そうではなくこれが彼のやり方らしい。名古屋駅に到着したとき、

「おれ、ちょっと交通公社か旅行案内所へ行く用事があるんだ。ついてきてくれ」

「新婚旅行にでも行くのか」

ほんの冗談のつもりだった。

「そうなんだ。実はおれ新婚旅行に行くんだよ」

「なに? お前もう結婚するのか」

「そういう羽目になったんだ。この前話しただろう。おれが同棲していたこと。それにもうおれの家に来ているってことも」

同棲していたことは聞いたが、もう家にいることは聞いていなかった。

「腹に子供ができたらしい。田舎だから近所がうるさいだろう。だから目立たないうちに式を挙げてしまいたいのだ。どうだろう。四国一周なんて。それとも九州の方がいいかな」

この前来たとき、妊娠している女のお腹を見つめていた意味が分かった。だけど明夫はまだ新婚旅行なんて考えたこともなかった。常雄の言うことを聞いていると、剥いても剥いても芯に至ることができない玉葱のような気がする。常雄は旅行案内書をめくっていたが、「ああ、面倒だな。また考えよう」と、数枚のパンフレットをポケットに突っ込むとそこを出た。

「驚いたね」

「こんなことは自分から言えるかよ」

「だけど君の家にはいないようだったけど」

「まだ昼間は働きに出ているんだ。あの店にいたってすることないからな」

二人はしばらく人込みの中を黙って歩いた。

「実はこれまで三度同棲してたんだ。女がいないとどうも我慢できない性分でね。……前の二人は追い出してやったんだが、こいつはどうしても一緒になるというんで、おれの住所まで調べて家へ押し掛けてきたのさ。まあおれも嫌いじゃなかったから女の家へ行って、親父に結婚させてくれって頼んだわけよ。……一応、格好だけはつけないといかんというからね。ところが親父はお前みたいなチンピラには娘はやれんとぬかしゃがった。その癖、女は帰らないっていうんだからおかしなもんさね」

もともとそんなに常雄の人柄を詳しく知っていたわけでもなく、勝手に彼のイメージを作り上げていただけかもしれないのだけれど、やっぱり昔とは違う。なぜこんなにも変ってしまったのだろう。名古屋に出るまで明夫はずっとそんなことを考えていた。