不思議な夢

とにかく面倒臭いことは忘れて食欲のままに食べ漁った。

一通り食べて、博樹はようやく落ち着きを取り戻した。

「あの……ところでさあ……」

「はい」

「ここに君がいるってことはさあ」

「はい」

「昨日の……」

「はい」

噛み合っているのかいないのか分からないやり取りが続いた。

「いや……」

「何ですか?」

「オッホン! 昨日の夜は……その……」

「フフフ……素敵でしたよ」

啜っていたお茶で博樹は噎せた。「ええ~~~~! いやその……あ、忘れていた!」

「君、誰なの?」

「昨日、あなたに連れてこられたんですよ」

博樹はまた焦った。

「はあああ? 昨日俺は墓参りして、そのまま帰って酒を飲んで……。いや……、その後! その後どうなった?」

必死で回想した。天井が回りだしたのは覚えているが、眠たかったわけではない。あの後は寝たのか?それとも記憶のないうちに何か?

「あの……」

「はい」

「私は何処であなたを連れてきたのでしょう?」

「さあ……何処でしょう?」

彼女はいたずらっぽく笑った。気を取り直したように

「さあ、時間ですよ! 遅刻したら大変でしょう」

「はいはい、行ってらっしゃいませ」

遅刻という言葉であわてた博樹は

「おお、行ってくる」

と部屋着のジャージのまま、上着だけ羽織って家を出た。

「さあ! 今日も一日頑張るぞおおお……って、何を?」

博樹は我に返った。しかし家に戻るのもなぜか気まずい気がして、戻るに戻れなかった。どこか心の底ではこんな久しぶりの心和むお見送りを壊したくないという心理が働いたのであろう。結婚したことはないが、かつては女性に見送られて出勤したこともあった。もう十数年も前の話だ。いつだって女性のお見送りは悪い気はしない。ふとジャージのポケットに手を入れるとクシャクシャになったお札が二枚あった。二千円である。もう一度ポケットに手を入れると小銭をかき集めた。五二六円あった。普段バイトがない日は、お金の節約のためにほとんど家から出ない博樹だが、別にオタクではない。