抗がん剤ではがん細胞のオリジナルは殺せない

抗がん剤治療のいちばんの問題は、骨髄抑制の副作用でがんと闘う免疫力の要であるリンパ球が減ってしまうことです。

がんの組織はハチの世界にたとえられます。

がん細胞には、女王バチに相当する1個のオリジナルの「がん幹細胞」と、そのコピーであるたくさんの働きバチ「がん娘細胞」があります。すべてのがん細胞は女王バチであるがん幹細胞から生まれてきます。

「がん幹細胞」はがん組織の中に数%程度という少ない割合でしか存在しませんが、がんの発生・成長に重要な役割を果たすほか、転移や再発にも深くかかわっています。

がん幹細胞は普段は静止期にあって休眠しています。抗がん剤は増殖期に作用するので、眠っているがん幹細胞にはほぼ無力です。

また、がん幹細胞は抗がん剤を細胞外へ汲み出すポンプを持っているので、抗がん剤はほとんど効きません。抗がん剤が殺せるのは増殖力旺盛で分裂の早いがん娘細胞だけです。正確に言うと、抗がん剤はがんを殺しているのではなく、がん細胞が増えるのを阻害する薬です(図1)。

写真を拡大 図1 がん幹細胞に変化するがん細胞の芽

一時的に抗がん剤が効いているように見えてもオリジナルはダメージを受けずに生き残っており、休眠した状態になっています。

そして、長期間の抗がん剤治療で免疫力が低下しているときを見計らって覚醒し、がん娘細胞を生んでいきます。これが再発・転移のメカニズムです。

いくら働きバチを殺しても、1匹の女王バチが生き残っていれば、次のがんがどんどん出てきます。

また、抗がん剤の有効性は4週間で判断します。しかし、がん幹細胞が分裂してがん娘細胞を生んでいくのは8週目以降です。4週間で抗がん剤が効いたとしても、そのあとまでは評価していません。