「ずいぶん楽しそうですね」

突然声がしたので、私たちははっとして声のする方に顔を向けた。

そこには優男という表現がピッタリな、人好きのする柔和な笑顔をまとった男性が立っていた。男性の顔を見るなり、私を牽制するかのように身を乗り出して話し始めたリサに心の中で苦笑する。

この人のこと、気に入ったんだな。確かに背が高く整った顔をしているけれど、リサってば本当にわかりやすいんだから。リサの邪魔をしないようにとりあえず隣でおとなしくしていようと、話し始めた二人に目を向けると、優男の横にそっぽを向いた別の男性がいることに気が付いた。

こちらはあまり背はないが体格がいい。見るからに日々トレーニングを欠かさない、といった体形である。ただしよく見ると優男に腕を掴まれて自由に身動きが取れないようで、細身に見える優男もさすがに職業柄鍛えているのかな……ん? そういえば体格のいい彼、少し顔色が悪くないかな? うつむいているから、光の加減? それともよっぽどこの場にいたくないのか。人と目を合わせようともしないし、相当な人見知りなのかしら……。

職業病とでもいうのだろうが、無意識のうちの勝手に人間観察に勤しみあれこれ考えていた私の視線に気付いたのか、私が話に入れないのではと気を遣ってくれたのか、優男が私に向き直った。

「こいつはね、俺の部下で、三木ヒロトっていうんだ。こんな体格のくせに小心者で、女性とはろくに話せなくてね。今日は俺が無理やり連れてきたんだ。スミレちゃん、どうぞよろしくね」

どうして私の名前を……? と湧いた疑問は、

「え〜そうなんですか! 私はリサと言います。よろしくお願いします」

と元気よく挨拶する彼女を見て、勝手に私の紹介まですませたのかと合点がいく。体格のいい彼がぎこちなく会釈したところでイベント開始の合図となり、いったん私たちの会話は途切れた。

【前回の記事を読む】【小説】「私たちは、日が出ている間に会ったことがなかった」

※本記事は、2022年5月刊行の書籍『私たちに、朝はない。』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。