教訓

私たち家族がコロンビア・メデジン市での生活をスタートした一九八六年頃は、その三年後から本格的ないわゆる麻薬戦争が始まる前ということもあり、比較的安定した生活を送ることができました。

それでもある日の夜十一時半頃、マンションから五十メートルほど離れた場所にあったベンツなどの高級車ディーラーが爆破され、私たちの部屋の窓ガラスもビリビリとかなり振動しました。翌日現場を見に行ったのですが、ショーウィンドウに飾られていたベンツ数台がメチャメチャになっているのが見えました。

また別の日にはマンションのすぐ裏でピストル強盗事件、そしてメデジン市内で白昼、私の目前で、タクシーから降りようとした人が持っていたカバンをあっという間に強奪されてしまいました。

日本人の奥様だけでなく、女性のコロンビア人スタッフから、女性は街なかを歩くときはネックレスやイヤリングは絶対に着けないこと、そしてハンドバッグは常に胸に抱えていることが身を守るには必要と言われました。また事務所の運転手からは、車に乗っているときは常に窓を閉めておくように言われました。その理由は、停車中の車に窓から手を入れて、メガネなどを奪う事件もあるとのことでした。

このようなこともありましたが、われわれにとってコロンビアは楽しいことがたくさんあり、思い出深い、充実した生活を送れた国でありました。たとえば、私は家族が来るのに合わせてメデジン市内のスポーツクラブに入会しました。そこにはゴルフ場、水泳プール、乗馬クラブにテニスコートとレストランがありました。私たちは天気のよい週末には必ずと言ってよいほど遊びに行き、大人はゴルフ、子どもたちは水泳に乗馬を楽しみ、家族四人で昼食を食べて帰ってきました。

しかしそのときにかかる費用は驚くなかれ、約千円でした。もちろんこのクラブに入会するには入会金二十万円の他に既会員五人の推薦状が必要でしたが、私にとっては難しいことではありませんでした。

コロンビアには、アンデスに連なる山々があり、また大西洋と太平洋に面するなど、山と海の両方を楽しむ機会にも恵まれていました。学校が長期休暇のときには私も休暇をとって、海沿いの町に海水浴に行ったり、山のほうにドライブに行ったりしていました。なかでも家族ぐるみのお付き合いがあった方が山に別荘を持っておられたので、子どもたちはよくそこの庭にテントを張ってキャンプをさせていただきました。それ以外にもいろいろ楽しいことが多く経験できました。

私の場合、家族帯同ができたのはコロンビア・メデジン市のみでしたが、そこでも最初の一年半は単身赴任であったため、同じ国で単身と帯同の両方を経験したわけです。そして私の得たことは、やはり家族は一緒に生活するのがベストだということです。そして、もしあなたが帯同できる条件がそろっているのに、仕事などの都合で単身赴任か家族帯同か迷っているならば、私は声を大にして「家族は一緒に暮らしましょう」と言うでしょう。

※本記事は、2021年10月刊行の書籍『アテンション・プリーズ』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。