【前回の記事を読む】東京で約七度違った…方位磁石が正しく「北極」に向かないワケ

第一章 地球の診断

電磁探査は電磁誘導現象を利用する方法です。図1に電磁探査法の原理を示しました。

[図1]地下で生じる電磁誘導現象。渦電流の強度はその場 所の比抵抗に依存するので、それにより生じる地表の磁場や電場 の強度を測定することにより、地下の比抵抗を調べることができ ます。以下のステップで現象が進みます。 ステップ1:地表の環状電線に交流電流を流すと、垂直方向の磁 場が地下に生じます。ステップ2:変動磁場に対してその強度変 化を妨げるように誘導電流が流れます(渦電流)。ステップ3: 環状の渦電流によりそれを貫く方向の磁場が生じ、それが地表で 測定されます。また、渦電流による電場も地表で測定されます。

地表にループ状のコイル(環状電線)を置き鉛直磁場を地下に送ると、地下に発生する渦電流の大きさが地下の比抵抗分布により決まります。地表で渦電流により誘導される磁場を測定して、地下の様子を探ることができます。詳しくは三・六・二および三・六・三で説明します。

人間の目で捉える短い波長の電磁波である光は、地下には透過しないため、目で地下を見ることができませんが、長い波長の電磁波を用いると地下深部を診ることができると一・二で述べました。そのことをもう少し詳しく説明します。

電磁波は、地下の岩盤に入ると、エネルギーが吸収されて強度が減衰します。波長が短いと急激に減衰し、波長が長いと地下深くまであまり減衰しません(図2)。

[図2] 地下に透過した電磁波はエネルギーが吸収されて振 幅が減衰します。波長が長い波(周波数が低い=1秒間に振動す る数が少ない)は、減衰が少なく地下深部まで到達します。

地下深部を探査するためには、波長の長い(周波数の低い=一秒間に振動する回数が少ない)電磁波を利用することになります。中には、波長が数kmになるような電磁波もあり、それを利用すると波長に匹敵するような深さの地下を診ることができます。そのような電磁波は、太陽の活動により地球に吹き付けられる太陽風や雷などの自然現象が原因で生じます。

電磁波は電磁誘導により地中に伝播していきます。この電磁誘導で生じる電場と磁場の強度比や波動のずれ(位相差)は地下の比抵抗により決まります。そのため、電場と磁場を観測して、電気抵抗の違いとして地下を診ることができるわけです。このような自然の電磁波を使う探査法をMT法電磁探査といい、三・六・一で詳しく説明します。

たとえば、鉄鉱石がある場所や塩分の濃い温泉水が溜まっている場所では比抵抗は小さくなり、そういう特徴のある場所を見つけることができます。ただし、波長の長い電磁波を使うと地下の構造の分解能は低下します。細かい所はわからなくなり、地下深部ではぼんやりと大きい構造だけが見えることになります。