アメリカに渡ってからの少年時代

アメリカは三人にとってびっくりする世界であった。今まで見た事もないスポーツや聞いた事のない音楽が溢れている。三人の入る施設にはペアレントと呼ばれるサーマンという男性と、ミルキーと呼ばれる女性がおり、同じ施設で暮らす子供達も他に七人おり、子供同士すぐに打ち解けた。

ペアレントのミルキーはとても穏やかで優しく料理上手だ。子供達ともとても打ち解けている。だがサーマンは最悪だ。いつもウイスキーのボトルを抱え、サラミをくわえていていつも決まってミルキーにとても耳障りな声で、

「おい、奴らにはジャガイモを食わせとけ、裏の畑で沢山採れるからな」

このサーマンという男は最悪で、子供達にはジャガイモばかり食べさせて、国から出ている養育費をピンハネしてウイスキーとサラミばかり買っているのだ。気に入らない事があるとすぐにミルキーを殴り子供達を蹴飛ばす最低の男だ。だが三人は優しいミルキーと気の合う子供達に囲まれ成長していった。それとは裏腹にサーマンの暴力は日に日に増すばかりで子供達をろくに学校へ行かせずに裏の畑でこき使うようになった。

辛い毎日だが子供達は元気に過ごしていた。でも楽しみな事もある。毎年、春と秋に遠足があるのだ。行き先はユベイル渓谷。全米屈指の渓谷でその山並みは恐竜の背中そのものであった。そして、谷底には大きな川が流れ、さすがに恐竜はいないが、現代の恐竜と言っても過言ではない体長7メートルの巨大なワニが生息している。

彼らの餌は川を泳ぐ大ナマズに、川辺で水を飲む鹿だ。水中から狙いを定めロケット弾のごとく獲物へと突進していく。一度くわえたら二度と離す事はない。

子供達の楽しみは、ミルキーの造るお弁当だ。いつもジャガイモばかり食べさせられているが、この日ばかりは御馳走が並ぶのだ。麓まではミルキーが運転するマイクロバスで行く。

みんな遠足は楽しみだが一つだけ最悪な事がある。サーマンも一緒に付いてくるのだ。助手席に乗り、いつものようにウイスキーを喉に流し込み何の役にも立たない。役に立たないどころか大声で歌を歌い、その音痴さはひどいものでとても聴いていられない歌声であった。

マイクロバスで1時間程走ると渓谷下の駐車場へ到着した。そこからは、リュックサックにお弁当と写生道具を詰め込んで、約2時間山道を登って行く。遠足といってもここでの風景を絵にして、学校で展覧会をしているのだ。そんな山道だがゆるやかな坂道が続いている。サーマンもウイスキー片手にその大きな体をゆさゆさ揺らしながら登っていくのだ。

2時間程歩くととても見晴らしのいい展望台へと着いた。そこから見る景色はまさに大開拓時代のアメリカそのままの場所であった。

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※本記事は、2022年2月刊行の書籍『ミスタープレジデント』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。