喜歌劇『クローディアスなのか、ガートルードなのか』

登場人物

クローディアス … 先王の弟、後にデンマーク国王
ガートルード …… デンマーク王妃、ハムレットの母
ポローニアス …… 内大臣
ハムレット ……… 先王の息子、デンマーク王子
女官長
執事
肉屋
肉屋の女房
パン屋
酒屋
酒屋の女房
大工
鍛冶屋
伝令

デンマーク・エルシノア城内および城下での出来事。

舞台の平面(平舞台)に二段重なる様式の馬蹄形三層の舞台装置。

上舞台と中舞台の両端は「廊下」となって上手・下手袖まで伸びている。

上舞台には左右対称的に二本の柱が立っている。

上舞台中央奥に、国王・王妃登退場のための階段が設置されているが、客席からは見えない。

場面設定として、テーブル・椅子・ソファなど小道具を用いる場合もあるが、原則的には何もない空間である。

第一幕

第三場 エルシノア城内の廊下

音楽(「女官長と執事」)。中舞台に明かりが入る。その前日。
女官長が羽扇で口元を隠し執事に何事か囁いている。

執事: むっはっは。王妃様は貞淑なお方。それは、女官長様の思い過ごしでございます。
女官長: お前は、女というものを知らない。ガートルード様も女は女、強い思いを寄せられれば、心が揺らぐ。その殿方に気持ちが傾く。
執事: むっはっは。このアルバート、執事を拝命したのは王妃様のお輿入れ前、よく存じております。あのお方は操の堅い女性。あなた様とは月と鼈(すっぽん)、言い寄る男に靡(なび)くことなど……むふっ、マリー殿。

女官長の腰に手をまわし、婦人物のハンカチーフをひらひらさせる。
女官長は、慌ててそれをひったくり、辺りを窺(うかが)う。

女官長: にょ、女官長様とお呼び、この無礼者!
執事: これは、ご無礼、平にお赦しを。……ところで女官長様、それはいつのことでございます、王妃様とクローディアス様が中庭でお会いになっていたのは?
女官長: 三日ほど前。ハムレット様からのお手紙をお届けしようとお部屋に伺ったら王妃様のお姿はなく、女官たちに尋ねたら、「中庭ではないか」と……。
執事: 女官たちは前から知っていたのでしょうか、お二人が会っているのを。
女官長: ああ。王様がお城を出られた後、何度か見かけたそうだよ、中庭で仲睦まじそうにされているのを。
執事: しかし、それだけでは…。王様の留守を預かる弟君が王妃様に相談されることもあるでしょうし、逆に……。
女官長: それなら執事のお前か私を通して、大広間でお話しされるのが筋ってもの。人目を憚るように中庭まで出られるっていうのはどうも……それも一度ならず何度もとなると……。
執事: う~ん、そう言われれば、そのようにも……(考え込む)
女官長: (人の気配を感じ、「廊下」の方へ)誰? ……気のせいか…(戻ってきて)……アルバート、
執事: ……アルバート、(ふと気づいて)えっ? は ?

女官長が羽扇で手招きすると、執事は脱兎のごとく身を寄せる。
音楽(「至福の時に身を任す」)。

女官長: 今夜は満月 望月(もちづき)の夜
窓から射し込む妙(たえ)なる光 光の帯
ベッドを照らす 光の帯
執事: 今夜は満月 望月の夜
窓から射し込む妙なる光 光の帯
ベッドを照らす 光の帯
女官長: ああ 輝く月の光 薄れゆき
執事: 東(ひんがし)の空 陽の光 広がる その時まで
女官長/執事: ああ 二人は 睦み合い 睦み合い
身も心も 解き放ち 解き放ち
至福の時に 身を任す
至福の時に 身を任す
月の光に 包まれて
包まれて 包まれて
執事: [跪(ひざまず)いて、女官長の手を取る] 不肖このアルバート、一心にお尽くしいたしますです、はい。
……ああ、マリー殿!
女官長: (執事の手を振り払い)女官長様とお呼び!
執事: はっ、マリー……いや、もとい、女官長様!

舞台暗転。

※本記事は、2019年8月刊行の書籍『雪女とオフィーリア、そしてクローディアス』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。