労働者の誕生

事業を行う人たちがもっともっとお金を増やしたい(稼ぎたい)と思っても、自分たちだけでできることは限られます。一日の時間は誰にとっても二十四時間であり、どう頑張っても増えません。

『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』に出てくる「タイム・ターナー」という時間を巻き戻す道具は(おそらく)実在しません。『ジョジョの奇妙な冒険スターダストクルセイダース』に出てくる「ザ・ワールド」のような時間を止める能力も(きっと)実在しません。

現実的に手っ取り早い方法は、猫の手を借りる、つまり人を雇うことです。はじめは囚人や奴隷といった人たちを使っていました。

奴隷貿易が盛んであった背景は、まさしくこれです。誘拐が行われることも、借金のカタに連れていかれることも、甘い言葉で騙されることもあったそうです。

人道的に受け入れられるものではありませんが、それは現代の私たちの価値観です。古代より捕虜はだいたい奴隷扱いされていましたし、人種差別も当たり前のことでした。

いずれにしても、強制的に連れてきた彼らに衣食住を提供する以上、最低限その分は働いてもらわなくてはいけません。

そんなとき、自らの労働力を売り始める人たちが出てきます。彼らは労働の対価に衣食住ではなく金銭(お金)を要求しました。労働者の誕生です。

労働者は、お金を得るために頑張るので、囚人や奴隷とはモチベーションが異なります。たくさん仕事をすればその分のお金を稼ぐことができ、任せられることが変わればさらに多くのお金を得られるようになったからです。

労働の分業化

しかし労働者一人ひとりができることも限られます。

そこでたとえば、糸を紡ぐ人、糸を染める人、織物を織る人、というように役割を分担することにしました。すると、それぞれの工程で練度があがり、ちょっとした工夫も行われ、生産技術が向上しました。

この人たちが一カ所に集まることで、工程間の移動時間も節約できました。それだけでなく、集まることで互いの競争心も芽生えるでしょうし、一人で黙々とやるよりは適度に気晴らしもできることと思います。そうして、生産性は向上し、利益も増えました。

現代でも京都の西陣は、その地域の名が冠された西陣織を職人さんたちが役割を分担しながら生産しています。それぞれの工程の技術が習熟し、容易に真似ができないものに昇華しています。

今日、多能工化という言葉が生まれており、一人で様々な工程を担うことを求められることがあります。ですが、何でもできます、は、何もできません、と同義といわれます。どちらが良いのかは時と場合によるものと思います。

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