この才気、伊達ではない

「ご馳走様でした。……ん、相変わらず美味しかったわ」食べ終わったリリアは皿にフォークを置く。

店主がやって来て皿を下げ始めた。「そりゃどーも。で、ちょっとは悩みが晴れたかい?」「まーね。貴方の言う通りだったのがちょっと悔しいけど」

「はは、なら良かったぜ。んじゃ、お粗末様と」店主はケラケラと笑い、厨房へ下がっていく。事実リリアの顔は、彼女自身が言った通り少しだけ晴れやかになっていた。

端にのけていた書きかけの資料を引き寄せる。晴れた気分のまま、再び仕事に取り掛かろうとして――「……あれ?何か騒がしい……?」さっきから、外から聞こえる声が大きくなっている気がする。初めは気にならなかったが、時間が経つ内に無視できない程になった。

リリアの顔が歪み始める。「……折角人が乗り気になっていたのに……何なのよ、一体!」腹が立ってきたリリアは、床を蹴って立ち上がった。店主に「お金置いとくから!」と声をかけ、ずかずかと外に出ていく。

外では、剣や鎧で武装している傭兵らしき三人の男の喧嘩――というより、一人が残り二人から一方的な言いがかりを付けられている――が始まっていた。

「おいテメェ、何様のつもりだ!誰に断って俺らの仕事取ってんだって、ああ⁉」「あの親父にもしっかりと言わせたぜ?考えさせてもらうってな!言質もとってあんだから、テメエがしゃしゃり出る幕はねぇんだよ!」

脅し混じりに話す傭兵二人はガタイがよく、剥き出しになっている腕にはがっしりとした筋肉が付いている。背丈も高く、リリアより頭二つ分程も大きかった。

「別に俺はお前達から仕事を取ったわけじゃない。依頼主から仕事を受けただけだ」

一方言いがかりを付けられている方はというと、二人に比べて体格が劣っているのは否めない。ある程度の背丈はあるものの、あくまで平均以上というだけ。体つきも筋肉は付いているものの、傭兵二人には到底及ばない。歳も若く、顔には幼さが残っていて、少年と言っていい年頃なのが伺える。

しかしそんな見た目とは裏腹に、彼は冷静だった。「ちゃんとした手続きもしてある。お前達こそそんな風に文句を付けて、恥ずかしいとは思わないのか?」「この、糞餓鬼が……!生意気なこと言ってんじゃねえ!」脅しに怯む様子を見せず、淡々と答えを返す少年。

彼の態度が気に入らないのか、二人は増々因縁を付けてくる。三人の周りには人だかりもできており、心配そうに事の成り行きを見ていた。彼らの会話と野次馬達の表情から、リリアは何となく状況を掴めた気がした。