こんな生活が二カ月も続くと、抜け出したいのか嵌まり込んでしまいたいのかさえ分からなくなる。誰のか分からない服を着て、コロッケを分け合いペットボトルを回し飲みし地べたに座り込む。いつもコンビニ前。

「ここやったら一晩中電気がついてるから、安心やし。変な奴が来ても、中に人が居てるから助け呼べるやん」

中学生としか見えない少女が、したり顔で笑う。この仲間たちの中で私は年長組だ。

「ねえ、シュリってさ。ほんまは金持ちの家の子なんやろ。カレシが言うてた。どっかのグラビアで見たような気ぃするって。アタシもそうかもって思うわ。シュリって、すっごく綺麗で、どう見てもええとこの子って感じやもん。お金も持ってるし」

家に帰れば温かいご飯があって、足を伸ばし切っても余りある大理石のバスがあって、ふかふかのベッドがある。

「まさか。そんなんあり得へん。お金は、親に塾代って言って貰ってるからやし」

ふぅん。多分ここの居心地がいいと感じるのは、皆が深く詮索しようとしないからだ。何故ここに居るのか、そんなものを穿り返すほどの繋がりは持っていない。自分に関わりがない限り、時間はそれぞれ勝手に流れている。

地面に座って路上を見ていると、いろんな人種が行き交う。私たちを汚いものでも見たように、そそくさと立ち去っていく人。ヤンキーにしか思えない男たちが、誘いをかけてくる。

「絶対、目ぇ合わしたらあかんで。シュリは綺麗やから、どっかへ売り飛ばされるで」

「売られるって、どこへ」

「ほんま、シュリてものを知らんなぁ。ほんま、ヤバイわ」

馬鹿にされてるのか心配されてるのか。

「ほら、来たで。あの顔ぶれはここらへんで有名なぼーやん(暴走族)らやで。何かあったら店に逃げ込む。分かった? それと、もし手ぇ摑まれたら噛むねんで。どこでもええから噛み付き」

うん――。遠い昔、妹の腕に噛み付いて母親にこっぴどく𠮟られた。泣きじゃくる妹を宥めながら母親は、逆やのうて良かった、と言った。

「せやけど、知らん人を噛むやなんて、気持ち悪いわ」

あほか。皆が笑ってる間に男たちは、近付いてくる。申し合わせたように、柄もののシャツを着て、下着が見えそうなくらいにズボンを下げていた。腰に付けた鎖が、じゃらじゃらと耳障りな音を立てる。

「なんや、楽しそうやな。ええことでも、あったん」

仲間が私の頭を押さえる。下、向いとき。

「彼女、えらい美形やな。で、こんなとこで何してんの」

それなりに大人ぶった口調だが、顔にはニキビが残っている。一番年下の少女が、コンビニに駆け込もうとした途端、一人の男子が道を塞いだ。

「なんもせえへんやん。ちょっと、お話しよ」

あかん! その声を合図に皆が一斉に駆け出した。誰かが私の腕を摑んでいる。伸ばした爪が食い込んでいたが、痛いと言う暇もなく全速力で走った。

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※本記事は、2021年11月刊行の書籍『渦の外』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。