ホルモン屋「コヒャン」に着いて、ビールで乾杯しながら七輪の網の上で燻ぶるホルモンを突いた。

「オマエら、いい気なもんやのう」

ふいに落ち込んだ表情で浅井が呟いた。

「なんでや、うまいこと伊達さんが治めてくれたやんけ」

進は怪訝な顔でそう言った。

「そやから、オマエらはノー天気なボンクラ学生やねん。あんなぁ、オマエらはわかっとらんよってこの際に教えたる。ワシらヤクザはなぁ、シノギしてなんぼのもんや。これ、どないして若頭(かしら)に返すねん」

そう言いながアロハの胸ポケットにしまった金を、上から叩いた。

「なんぼあんねん?」

進が素っ頓狂な声で聞いた。

「あのなぁ、オマエ、ワシの言うとる意味わかっとんか?」

そう言った浅井も数えずにしまった金が気になったのか、取り出して数え始めた。

「十二万や」

当時の大学卒男子の初任給がおよそ九万円くらいだったことから、二十歳の若者にとっては大金だった。

「おぉ、ほんならこのあと、ちょっとしたとこでまだ飲めるで」

ホルモンを頬張りながら進が言った。

「ほんまにオマエはアホか!」

浅井はビールを一気に喉に流し込んで語気を荒げた。

「ヤクザは篤志家(とくしか)とちゃうねんど、この十二万円どない利子つけて返すねん?」

「えー、もろたんとちゃうのんけ?」

進がまた調子外れに声を出す。

「もうええ、進、ちょっと黙っとけ。それどういうこっちゃ、浅井?」

「この金は若頭の男気やけんど、はい、ありがとさんでは、ワシらの世界は済まんのんや、ボケ!」

「ほんなら、どないしまんねん?」

進は箸を止めた。

「まぁ、この分のシノギをどないかせなあかんやろな。ワシはオマエら相手にしとらんさかい、ゆっくりあとで考えるわ」

そう言いながら浅井は横を向き、自ら空になったコップにビールを注いだ。

【前回の記事を読む】「ヤクザが喧嘩で己のドスを落として逃げ帰る」ことの意味とは