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第3章 現代政治の実態

日本の現状

その後、米国の離脱でTPPが数カ月も頓挫し焦りを感じたのか、2017年7月にベルギー訪問中の安倍首相は欧州連合(EU)のトゥスク大統領らと会談。日本とEUの経済連携協定(EPA)に大枠合意したと宣言し、2018年7月EPAに署名してしまった。

これによって(大企業の)車産業は米国・中国に次ぐ3位のEUと結びつき利益を上げられるであろうが、農業などの弱体化は避けられず、特に乳製品の犠牲はTPPを上回ると見られている。

そのEPAが2019年2月発効し、農林水産物の82%が関税徹廃されてしまったにもかかわらず、日本の国会がその承認のために費やした審議時間は6時間にすぎなかったという。EUでは農家の減収などを補うため、直接支払制度により生産者を守り、高い自給率を維持している。

一方で安倍政権は「攻めの農業」のかけ声だけで、準備も戦略も不十分のまま市場開放を急いだのである。そして、12月4日、日米貿易協定が参院で自民、公明両党などの賛成多数で承認され2020年1月1日に発効されたが、北海道の農業への打撃は必至とみられている。

これら安倍一強政治の「おごり」に対する世論の不信感を回避するかのように、突然2017年9月28日衆院を解散し、10月10日に選挙を公示し22日に投票を行った。野党の分裂・合流等に乗じて勝利できたので、公式の場では低姿勢を印象付けようとしているうちに、2018年には安倍政権を揺るがすような加計・森友(文書300カ所改ざん)疑惑が浮上し、地検特搜部の搜査が入った。

これにより国民は正しい判定があると思っていたが、財務省幹部ら関係者38人全員が不起訴にされただけでなく、停職3カ月の佐川宣寿理財局長も後に国税庁長官となっている。また、佐川局長の後任で首相夫妻の立場を擁護し「文書厳重注意」の処分を受けた太田主計局長までも、2020年7月には財務省事務次官に昇格した。

それだけでなく、これらの裏工作を仕切った元検事の黒川弘務事務次官は、「官邸の守護神」(注1)ともいわれ、2019年1月に東京高検検事長となっている。そして、東京地検特捜部が搜査に入った桜を見る会(注2)でも、首相夫妻を守護していた黒川検事長の定年が近くなってきたので、首相は先例のない検事の定年を半年間延長する閣議決定(注3)をさせた。

そのうえ、この先例のない定年延長を正当化するため、安倍首相は検察庁法改正を成立させると言明したのである。この手前勝手な言動に国民の支持率は低下し、2020年5月に会員制交流サイト(SNS)での批判が拡大し改正案は廃案となったのである。