帰任命令

移転価格税制は、俗に「国間の税金大合戦」と呼ばれるほど、グローバル企業にとって重要な問題だ。「ハイ・リスク、ハイ・リターン」という投資原則から、たくさんの機能やリスクを負う企業は、より多くの利益を享受すべきだし、損する時もダメージが大きい。

一方、営業や開発などの機能を負わず、ひたすら日本本社の指示通りに製品を作る中国子会社は、「ローリスク・ローリターン」だが、税務上の欠損は原則認められなかった。山田グループは創業以来、数十年間をかけて蓄積された製造ノウハウおよび顧客販売ルートを、惜しむことなく、上海山田に一から教えた。

上海山田の設立当時、中国の低コストで生産した製品を日本本社に販売し、日本本社はこれらの製品に利益を乗せて顧客に販売することによって、利益の回収ができたが、2010年以降、上海山田の売上の半分以上が中国の自動車メーカーへの直接売上となったため、日本本社に売上の3%に相当するロイヤルティを支払う利益回収スキームに変更した。

神岡は上海に赴任する前に、一度日本本社の財務部を代表して、上海山田の古川総経理及び財務部の皆さんとテレビ会議をしたことがあった。議題の中に、設立当初から締結されていた上海山田と日本本社間の「技術使用許諾契約」に関する税務リスクの検討があった。

神岡はその時、あまり中国の税金に詳しくなく、詳細は覚えていないが、確か陳思遠から「税務局の移転価格税制の調査を受けるんだ」とか、「日本に送金できなくなるんだ」とか、何が分からないのかさえ分からないような説明をされた。一番印象に残っていたのは、古川総経理と本社取締役の言い争いだった。

前方スクリーンの向こう側に、上海山田のメンバーが緊張した顔つきでこちらを見ていた。中央に座っている古川総経理は真剣な顔で本社の取締役たちに話しかけた。

「上海山田はその設立当初から5年間、日本本社の技術やノウハウを使って製品を作っていました。しかし、今生産している部品はまだ日本で発売されていない新車種のものであり、日本本社の設計図やノウハウが使えません。これらの新製品の売上に対しても3%のロイヤルティを支払わなければならないのは、経済的合理性に欠けます……」

「なんて恩知らずで、親不孝の子会社が!」

古川総経理の話が終わっていないのに、日本本社の取締役が顔を真っ赤にして激怒した。

「少し利益が出せたからって生意気なことを言うな!」