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ヒョンソクはあるものを手にして屋根裏から下りてきた。

奚琴ヘグム〔日本の胡弓に類似した韓国伝統楽器〕と弓〔形状はバイオリンの弓に似ている〕だ。それらを床に置くと、彼は屋根裏へ引き返した。

忘れていたものがあった。彼はすぐに二巻きの弦を持って下りてきた。それらは長い弦をゆるく糸巻に巻いたもので、一つはヘグムに、もう一つは弓に使うものだ。

彼はヘグムと弓の横に糸巻を置いた。彼はそこに腰を下ろし、床に並べたものを見た。]

ヒョンソクはそれらを長い間食い入るように見つめ続けた。目が鉛の重りを取りつけたベルトへ向くと、彼の顔には憂愁の色が浮かんだ。しばらくしてから、ヒョンソクは姿勢を正した。彼は決意に満ちた表情で固く口を引き結んでいた。

彼は一つずつ鉛を持ち上げてはベルトの重さを確かめ、それから床に置かれているものをそれぞれ確認した。彼の目が服に留まり、見落としていたことがあるのに気づいた―彼は着替えを一揃いしか用意していなかった。

彼はクローゼットへ向かい、服を数着取り出した。それからヒョンソクは、床に広げていたものを集めて、二つの鞄に詰めた。すべてのものが準備できたが、一つ忘れものがあった。彼は自分のデスクへ向かい、引き出しをあけて手紙を取り出した。文面を読み返し、書き忘れたことがないか冷静に確認した。

彼は立ち上がり、うつろな目で壁にかかっている写真を見つめた。それは、その部屋に飾ってあるたった一枚の写真、彼の家族―息子とその妻、そして孫娘の写真だった。

ヒョンソクの目は潤んだが、彼はすぐに落ち着きを見せた。

※本記事は、2022年4月刊行の書籍『ジャズ・ラヴァーズ』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。