火星基地としても決断の時が迫っている。

アーダムが地球帰還隊長に選ばれ、一緒に同乗する5名の選抜隊が決められた。帰還船の整備、残り少ない食料の中から何とか6名の1年半分の食料を積み込む。準備をするのも、お互いに気を使いながら遠慮しながらである。

「いよいよ明日、地球に出発します。長い間お世話になりました。地球の状況がどのようになっているか全くわかりませんが、救援隊を必ず連れてきます。それまで頑張っていてください」

残る隊員の中から

「私の家族がどうなっているか、とても心配しています。地球に着いたらこの手紙を届けてもらえないでしょうか」

と、手紙を託される。

「わかりました。探してみます」

預かる隊員も差し出す隊員も、限りなく困難であることはお互いにわかっているのだが、断ることができない。はかないかもしれないが希望をかける。

「幸運を祈っています」

「皆さんさようなら、ありがとうございました」

「気を付けて行けよ」

「必ず帰ってきます。それまでは元気に暮らしていてください」

後は言葉にはならなかった……。送る側も出発する側も、ほとんど望みがないことをお互いに感じているが、万に一つの可能性に賭けるしかないのである。

「火星からの観測では、地球の周りには地球から飛び出した瓦礫や小さな岩石がいまだに取り巻いているようだから、地球に近づいたらそれらには十分に気を付けるようにしてくれ。それからもう2年にもなるのに、いまだに噴煙で地表面がどうなっているかわからない。施設が無事かどうかすらわからないから、臨機応変に対応してくれ」

「了解です。全力を尽くしてみます」

と、司令官ウサインの目を見つめる。

「吉報をお待ちください」

と、続けるが語尾が下がる。地下の駐機場から滑走路に出た帰還船に向け、30名の残った隊員が屋外活動用スーツを着て滑走路に並び大きく手を振る中、轟音と共に火星を出発する。

「頼むぞー、行ってらっしゃい……」

帰還船の窓からは小さくなって行く火星基地を眼下に見る。いつまでも手を振る残留隊員たち、隊員たちの姿が小さく見えなくなった時、滑走路の端に大きな翼竜の羽ばたく絵が行く先を指し示すように見えてきた。

「さようなら……」と、各帰還隊員が胸の中でつぶやいた。

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※本記事は、2021年12月刊行の書籍『リップ―Rep―』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。