三、男の欲

「僕の嫌いじゃないもの?」

「向こうから来る女性を見ていてください。彼女のパンティをみせてあげますよ」

「えっ! いやいやそれはまずいでしょ、犯罪になりますよ」

「彼女にはわるいけど見たいですよね?」

「まぁ、そりゃ、見られるもんなら見たいですよ、男ですから。でもどうやって?」

「神の力を信じなさい」

一人の若い女性が近づいてくる。いかにも〈夜の蝶〉といった衣服をまとい、細面で瞳が大きく、スレンダー、純一にとっては好みのド真ん中にいる容姿と体躯。純一は顔を伏せながら眼球だけで彼女をロックオンした。

老婆は「力を信じなさい」と言ったが、とてもとても。期待しつつも正直無理な話だった。

(この状況でどうやって彼女のパンティを僕にみせるつもりなのか。風が吹けばスカートがめくれあがることがあるが、今は風などない。まったく無風。仮に風が吹いたとしても、スーツのスカートを捲りあげる風などは、台風でもない限り吹かないだろう。可能性はゼロだ。女性が自らパンティをみせるわけもない)

女性が近づいてきたが、案の定なにも起こらない。そして、純一の前を通りすぎようとしている。

純一はバカにした思いを視線に乗せ、老婆へ送った。

老婆は瞬きせず前だけを見て、仏像のようにじっとしている。

だが、女性が純一の前を七、八歩通りすぎたときだ、女性の後方から三人の男子小学生が足音を殺しながら、嬉しそうに小走りに近づいてきた。そして、女性を追い越すと、そのなかの一人がすれ違い様にスカートの裾を両手でつかみ、思いっきり捲りあげた。純一の目に、艶やかなピンクのパンティが飛びこんできた。

女性は思わず悲鳴を上げしゃがみ、あたりをキョロキョロ見まわし、なにが起こったのかを必死に理解しようとしている。

喜び勇んで逃げる小学生に女性が拳を振りあげ、

「コラッ! タカシ!」

と、お腹の底から怒鳴ったが、小学生たちは疾風のように赤い手すりの階段を下りて行った。

女性も同様、純一たちの視線を避けるように、すばやくスカートを整え、顔を赤らめながらそそくさと階段を下りて行った。

※本記事は、2022年1月刊行の書籍『憂い人と愁い神』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。