11月12日(木)

ハヤ

今日は少し遅く、夜7時過ぎに良子を訪ねた。

点滴はすべて取り外され、動作も軽やかだった。夕食はすき焼き風だったと言った。明日はいよいよ退院である。

今朝、会社事務所で、水槽からハヤが跳びだして、床で死んでいた。2年ほど前、大阪の社員が、自宅近所の川で掬ってきたメダカをくれた。持ち帰って東京の事務所で飼った。20匹くらいいたと思う。

その中に一つ、動きが特別に活発なのがいた。しかし大きさは他のメダカとまったく変わらず、私はメダカであることを疑わなかった。ところが日が経つにつれ段々大きくなって、メダカでないと分かった。

図鑑で調べると、どうも、「ハヤ」と呼ばれている魚のようであった。華麗さはないがすらりとした、きれいな魚である。オスかメスかは分かりようがない。そのままメダカと一緒の水槽に入れておいた。

冬に入り水温が下がると、メダカに餌はやらない。当然“ハヤ”の餌もない。そのうち、メダカの数が減っていくような気がした。

ハヤが食ったのではないかと、思い至った。そこでようやく、水槽を追加した。

春になって、ハヤは大きくなった。きれいな斑点が出た。

動きは更に活発になって、餌をやると、飛び上がってパクリといく。餌をやるために上蓋をとったとき、外に跳びだしたことが何度かあった。

そこでもっと大きな水槽を買い、水は浅めに、上蓋を絶対忘れぬように気をつけた。それで1年は、無事に過ごしたのである。

エアホースを通している隅の三角の隙間から、跳びだしてしまったのであろう。確率としてないと思っていた私がいい加減であったのだ。2年間の生活であった。残念なことをした。

明日良子の退院というときに、何か、いけにえになってくれた気がした。

11月13日(金)

退院

9時半に良子の病室に入った。良子はまだパジャマ姿で、ナースと何か話していた。

「それらしきカタチに近づいてきた」と言っている。どうやらウンコの話らしい。

ナースが出て行くと良子は着替えた。着替えてみると、少しは痩せたが、病人のようには見えなかった。顔色が透き通って生活臭が抜けていた。

支払いを済ませた。ほぼ30万円であった。先日10月分として7万円ほどを支払ったので、今回の入院・手術受け費用は、37万円ほどであった。前回の入院時も30数万円支払ったので、病院への支払いは合計70万円余りとなる。

10時にこれからの食事について説明と注意を受けた。それで、とりあえずはすべて終わった。

次回の通院は30日に指定されている。2週間以上先である。のんびりしているようにも感じるが、緊急を要する懸念がないということだろうと、すべて良い方に解釈する。

駐車場へは私一人が行き、良子とあい子は正面玄関で待たせた。そこで記念撮影をした。自宅までは10分足らずである。11時少し前には帰宅した。

※本記事は、2019年3月刊行の書籍『良子という女』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。