「来週の金曜日、海上保安部の最寄り駅でね!」

仕事場のデスクに置きっぱなしにしていた携帯電話の画面には、リサからのメッセージが届いていた。

パーティー当日、私たちは会場の最寄り駅で早めに待ち合わせをしカフェにいた。

「ねえ、今度の旅行のこと詳しく決めようよ」

私は、来月予定している島根・鳥取旅行について切り出した。

「そうだった。もうあまり時間もないしね」

私たちは大学で知り合ったが、卒業後も頻繁に連絡を取り合ってご飯に出かけたり、お互いの仕事の休みが合えば今回のように旅行に行ったりするほど仲がよい。

私とリサが通っていたのは、マンモス校と呼ばれることもしばしばある私立の総合大学の薬学部だ。私立の総合大学で薬学部があるところは珍しいが、医療系に力を入れているらしく医学部や看護学部もある。

薬学部では、あいうえお順にクラスが決まっており学籍番号が前後だった私たちは(近藤リサと坂本スミレで、リサが私の前だった)、ガイダンス、試験、実習班(班ごとに行う、薬品や動物を扱う実験は理系学部には付き物なのである)などイベントごとに席が近かったので、必然的にたくさん話すようになった。

なかでも特に打ち解けたきっかけは、サークルの新歓に一緒に参加したことだったと思う。大学生活に慣れていない状態で目まぐるしく先輩たちに勧誘を受け、戸惑っていたがリサが隣にいてくれたことでとても心強かった。結局、二人で新歓に参加したサークルに一緒に入ることになり、徐々に大学で一番気が合う存在になっていった。

華やかなオーラを纏う彼女の中身は絵にかいたような理系女子であり、有機化学を一番の得意科目としていた。私はとても苦手な内容だったため、よく試験前に要点を教えてもらったものだ。

薬学部を卒業して薬剤師国家試験に合格すると薬剤師免許保有者となり、病院や薬局で薬剤師として働くことができる。実際、薬学部卒業者のうち最も多い就職先は薬局薬剤師であるが、製薬会社やメーカーなども人気である。

そんな中私たちは比較的変わった就職先を選択したもので、私は公務員として働く道を選んだ。市場や各医療機関で、薬物が適切に流通しているかなどの調査・確認を行っている。ただし身分や詳細を簡単に明かすことはできない特殊な業務も担っていることを理解してくれている彼女は、私から振らない限りその話はしない。

一方リサは、その得意分野と自分の興味を結びつかせて大手化粧品会社の製品開発・研究者として働いている。実に彼女らしい。不規則な生活を送る私を心配し、せめて肌のお手入れを怠るなと、試作品や市場に並ぶと手が出ない高価な化粧品類の試供品などを時折差し入れてくれる。本当に気の利く素晴らしい親友である。彼女と出会って今年で九年かあ、時間が経つのは早いなあ……などと考えていると、リサの声で我に返った。

※本記事は、2022年5月刊行の書籍『私たちに、朝はない。』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。