いいよ!田舎!(2015年5月)

この春より、実家のあるわらび野地区へ引っ越した。妻が3月末で勤めていた職場を退職し、うちの農園を手伝うことになったことに加え、息子がわらび野から近いところにある保育園に入園した。さらに、たまたま借家が見つかったので、このタイミングで引っ越しすることに決めた。

借家は、築50年以上の古い元教員住宅で、上下水道はなく井戸水だし、トイレは汲み取り式のボットンタイプ。さらに古い家のため、とにかく寒い。貸主の町役場からは「とても人の住める物件ではないぞ」と貸し渋られるほどのボロボロ借家。

今まで市街地の冷暖房完備のオール電化アパートに住んでいたので、農村出身の僕は全く心配がいらないけれど、ずっと市街地に住んでいた妻にとっては、とんでもない山奥のとんでもないボロ家に引っ越すことになっては、さぞかし不安も多かったことだろう。

しかし、住めば都。古くても広い家なので、小さい子どもがいる僕たちにとってはとても過ごしやすい。夏場はともかく、冬場は寒いだろうが、ストーブをつければ済む話だし、我が家はあえて石油ストーブではなく薪ストーブを設置した。

僕はもともと家中全部が均一に暖かい最近の家は好きではない。家の中心に暖かいところがあって、その一ヵ所に家族が集まってくるという光景が田舎育ちの僕にとっては当たり前のことだけれど貴重な空間だと思っている。

トイレはボットンだから水洗式ではないので水の節約になるし、薪ストーブだから石油も使わなくて済むということを考えたら、地球にやさしいエコな暮らしと前向きにとらえることもできる。上下水道料金はかからないし、薪は自分で用意できるので燃料費もかからないから、水道光熱費は今までの半分以下になった。

そして、なによりも素晴らしいのは自然に囲まれているということ。朝は早くから野鳥たちが賑やかにさえずり目を覚ます。窓の外には広い牧草地に牛の群れ。一歩外に出れば、木々の緑と草花の咲き乱れる庭にモンシロチョウがヒラヒラと舞う。夜になれば、街灯の少ない漆黒の空には今にも零れ落ちてきそうなほどの無数の星々がキラキラと輝き感動する。

そしてこの豊かな自然の大地を舞台に一生懸命働く人たちを間近に垣間見ることができるのも大きな魅力。今の時期は、我が家では畑を耕したり、種を蒔いたり、近くの酪農家はデントコーンの種を蒔いたり牛を放牧したり、少し下に行けば田植えにいそしむ水田農家の姿もたくさん見られる。

車もほとんど走らないので息子はのびのびと外で遊んでいられるし、当初はきっと不安であったであろう妻も、今では自分で薪ストーブを焚いて田舎暮らしを楽しみ始めているようで一安心だ。

田舎暮らし、なかなかいいです。あなたもいかが?

※本記事は、2022年4月刊行の書籍『山奥の笑顔百姓』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。