はじめに

2022年現在、相続という言葉は非常にメジャーになり、お盆や年末年始になれば、週刊誌の目玉テーマとして取り上げられるようになりました。しかしこのような状況になったのは、実は最近10年間程度ということをご存知でしょうか。実はこの10年間に相続に関わる法律・税制や年金制度などの改正、終身雇用制の崩壊に伴う所得減少と将来への不安、そして日本人の家族観や相続に関する考え方が大きく変化しているのです。

実はその大きな変化に私達はあまり気づいていません。今回この本を出版する目的は単に相続問題を解決する手段をお伝えするだけではありません。一言にまとめると、「本書を読めば、最近10年間の相続に関する大きな変化と最新の対応方法を知ることができます!」ということをお伝えしたいのです。

別な言葉で言い換えると、先程述べたこの10年間でどんな大きな変化が起きたのか? なぜ起きたのか? それを知った上で、今回お伝えする内容を読んでいただき、これから相続に対して、何をすればいいのかを知り、行動していただきたいというのが目的です。

また10年前と現在では大きな変化が知らず知らずのうちに起こっていることを知り、「このままではマズイ」「これまでと同じ対応だったら、取り返しのつかない後悔をする可能性がある」と知っていただきたいのです。この大きな変化を知る上で、これまでの歴史の流れを理解していただくと、この10年間の大きな変化を理解できますので、簡単にお伝えさせていただきます。

一昨年2020年は、太平洋戦争の終戦から75年の節目の年でした。終戦をきっかけに民法が改正され、家督相続から法定相続(均分相続)になりました。つまり、家を継ぐ者に全ての相続権が与えられる家督相続から、家族が均等に財産権を与えられる法定相続という制度に変わりました。

しかし、家督相続を体験している世代からの影響もあり、法律上は法定相続であっても、家を継ぐ子供が相続権を承継し、その方針に他の兄弟が従うという暗黙のルールが存在していました。統計などの数値こそありませんが、団塊世代より年配の世代が相続を受ける場合は事実上の家督相続に近い形態がまだ多く存在していたように感じます。

これらの世代以降の相続になると、子供側の核家族化が進み、実家を継ぐという相続は少なくなりました。その結果、親側も実家を継ぐ子供に資産を多く遺すことが不要になり、「後は仲良く分けて欲しい」という曖昧な方向性を示すことが多くなりました。

それでもこの時代は、日本経済も右肩上がりで、日本人の平均の所得も増加傾向、年金制度も保障されていたため、将来への経済的不安は比較的少なく、家族が譲り合い穏便に相続を終えるケースが多い時代でした。