終活

翌日彼からメールが届いた。

<件名>てつやです

お互いもう歳なのだから物忘れがないうちに何度も逢っておきたいな。

時間が合えば気楽にランチや飲み屋で一杯なんて、どうかな。

ことり、覚えている?

私が足の骨折で入院した時、ことりが病院に見舞いに来てくれたこと。

上本町の病院、

あの時も劇的な再会だったけど、今回はこれで終わりにしたくない。

やっぱり二人は何かあるんだなぁと思うんだ。

私は彼が足の骨折で手術し、入院中に面会に行ったことなどすっかり忘れていた。あれは何年前だろう、私は2回目の転職先で上本町の病院から来たというナースと仲良くなり、彼のことを聞いて面会に行ったことを思い出した。だとすれば、33年くらい前だろう。一回きりの再会だった。

彼は退院しても私には連絡をくれなかった。彼は私になど興味はなかったのだろう。しかし、今回はこれで終わりにしたくないと言う。私と同様に彼も今後も逢いたい気持ちを持っていることが分かって少し安心した。ただ、二人は何かあるんだなぁ、と暢気なことを言っているが、私は彼に捨てられたと思っていたから彼には未練たらたらだった。もし何かあるとするなら、それは私の「怨念」しかないだろう。

<件名>ことりです

こんばんは、メールありがとうございました。二人が何かあるのだとしたら、それは私のあなたへの想いです。

今回あなたと再会して自分の気持ちを素直に確認することが出来ました。

私はあなたのことを忘れることが出来ませんでした。

でもこれは過去形です。

これからは62歳になった相原徹也さんと

61歳になった東野志津恵として、

新しい関係で残りの時間を楽しく共有したいです。

私は一つのことを除いては人生に全く悔いはありません。何があっても受けて立つ覚悟でおります。

ちょっと重くなってすみません。

3日前の再会で私たちは45年前にタイムスリップした。あの頃と同じ声、同じ瞳、温かい時間が流れる。でも45年前からやり直すことなんて出来やしない。この45年間に2度の結婚、離婚、両親の死があり最終的に一人になった。一人は寂しいと言うが、自由気ままに送ってきた人生なので後悔することなどなく、残さなければならない財産もなく気楽なものだ。ただ、私は一つだけ許されない罪を犯してしまった。そのことだけが心に重くのしかかる。たとえ、私が死んでも償いきれないことだ。

【前回の記事を読む】「彼も私も一緒に過ごした日々を覚えていた」45年の空白を経て、胸のときめきが蘇る…

※本記事は、2021年12月刊行の書籍『 終恋 —SHUREN—』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。