第一幕 くれない艦隊現る!

君はなぜゆうれい船が現れるのか理由を知っているか?

「右前方、魚雷の航跡確認!」

駆逐艦さくらの艦橋で、航海長が艦内に響き渡る大声で叫ぶ。

取舵(とりかじ)一杯」

駆逐艦さくらの長内(おさない)艦長が命令を出す。ここは、南太平洋の戦場の一端。日本の連合艦隊三隻に、アメリカ太平洋艦隊五隻(駆逐艦四隻、潜水艦一隻)。

「よし、T字戦法だ!」

T字戦法とは、日露戦争で日本海海戦のとき、大日本帝国海軍連合艦隊が当時世界最強のロシア・バルチック艦隊を迎え撃ったときの艦隊の隊列名だ。駆逐艦さくらの長内艦長が叫ぶ。

「態勢はわが大日本帝国海軍連合艦隊が有利だ!」

日本の連合艦隊が、アメリカ太平洋艦隊の縦一列に対して横一列に並び、艦砲射撃を始めた。戦闘状況は一進一退が続いた。激戦だ。日本の連合艦隊とアメリカ太平洋艦隊との戦闘はまだ続く。激しい砲弾が飛び交う。負傷者が次々と倒れていく。日はだんだん暮れていく。いわゆる「くれない」だ! と、そのとき、日本の連合艦隊の右後方、トラック諸島の陰から霧が発生し航跡が!

「わが艦隊、右後方より新たな砲撃を受けています!」

駆逐艦さくらの見張り員が叫ぶ。

「何が起こったんだ!」

駆逐艦さくらの艦内はいっせいにどよめく。

「新たな艦隊、出現」

続いて、航海長が叫ぶ。トラック諸島で繰り広げられている艦隊戦の三対五が、夕暮れどきに差し掛かると、いつの間にか総勢二十隻と倍の数に膨らんでいる。航海長がつぶやく。

「この海域にはわが大日本帝国海軍連合艦隊とアメリカ太平洋艦隊しかいないはずだ!」

「一体何者だ!」

駆逐艦さくらの長内艦長が叫ぶ。航海見張り員が双眼鏡で、なぞの艦隊を覗く。しかし、なぞの艦隊は霧に包まれ、誰も人影らしい人は見当たらない。

「敵艦隊と思わしき船の船橋に、人影はまったく見当たりません!」

「何!」

と船橋内が一瞬何ごとかとざわつく。と、まず、航海長があわてて双眼鏡を取り、その敵艦隊を覗く。長内艦長も急いで自ら双眼鏡を手に取り、その敵艦隊の方を覗く。

「ゆ、ゆうれい艦隊だ!」

「く、くれない艦隊だ!」

誰かが叫んだ。

「これが、噂のゆうれい艦隊、いや、くれない艦隊だ!」