君と抱く

おやじさんはすぐさま、またおれに赤ちゃんを抱かせて今度はミルクを作りはじめた。

バッグから出した哺乳瓶に、ミルクの粉が三段に小分けされて入っている容器から一回分の粉ミルクを移し入れ、ポットの熱湯を哺乳瓶にそそぎ、乳首でフタをした。それを水道水の下で手早にゆらゆらと揺らしながらミルクの温度を冷ましていた。そして何回か手首の内側の辺りにミルクをたらして出してみて適温になったかを確認していた。

「よし。これでいいぞ」

そう言うと丁寧に哺乳瓶の周りの水滴を拭き自分はあぐらをかき、おれから赤ちゃんを受け取ると、その子を横抱きにしてそっと口元へミルク瓶を差し入れた。

赤ちゃんは待ってましたとばかりに勢いよくミルクを飲んでいたが、おやじさんはおれにバッグの中からガーゼのハンカチを取り出して、それを赤ちゃんのあごの下に挟むように言った。ミルクはみるみるうちに減り、あごの下に置いたハンカチもミルクとよだれでビチョビチョに濡れていた。

「へえ~手際良いんだなおやじさん、さすがだよ」

おれが感心し尊敬の眼差しを向けてもおやじさんは平然とこう言った。

「今のオムツ替えとミルクやりちゃんと見てたよな」

確認するようにおれをにらみ見たままおやじさんは「あとはお前が一人でやるんだぞ」ととんでもなく残酷なことを言いながら赤ちゃんには優しく接して、ミルクを飲み終えた赤ちゃんを自分の肩辺りに頭がくるようにタテ抱きにして、本当に優しく軽く赤ちゃんの背中をトントンと何回か叩いた。

「えっ、それは何をしてるんだ?」

おれへの返事は突然に「ゲップ」と赤ちゃんの特大のゲップのあと返ってきた。「ご覧の通り。ミルクのあとはちゃんとゲップをさせるてやるんだぞ、いいな」だった。尊敬した。同時にものすごく不安になった。「マジでおれ一人でこれをやるのかよ~」とおれは心の中で叫んでいた。

「ちょっと見ておけ、ただ見てるなよ。泣いたら抱いてやってあやせよ」

そう言って、赤ちゃんをバスケットに寝かせてやるとおれに見させておやじさんはどこかへ出掛けていった。