お出迎えも毅然とやれ

 

猫は五感のうち聴覚が一番鋭く、大方の見方では、人間の何万倍もあるともいう。何万倍は、ちと怪しいのではと当事者である俺は思うのだが、いずれにしても、聴覚が優れているのは確かだ。

榎本さんちの増改築工事の音だって、人間よりは何倍も大きく聞こえていたと思う。だから俺が参ってしまっても驚くには当たらない。俺が臆病なのではない。

新聞紙上で、ある猫好きの人が書いた小さなコラムを見て俺は驚いた。その人は「帰宅して玄関のドアを開けると、飼い猫が玄関に座っていて、お出迎えをして待っている。どうして自分が自宅に向かって帰って来ていることが、猫には分かるんだろう」と書いていた。

猫は聴力が凄くいいんです! 数十メートル先からでも、自宅に向かって歩いて来る足音が聞こえるんです! それに嗅覚もかなり鋭いから、飼い主の匂いも感じるんです。飼い主が玄関に到着する2分くらい前には「あ、飼い主さんが帰って来ている」と気がついて、玄関に行って座って待っているんです!

こんなことも知らないとは、全く。これは飼い主が知るべき知識の基本のキですよ。

俺も飼い猫だから、お出迎えは一応時々するよ。榎本さん到着の2分くらい前になったら、玄関に、庭にいる時は門まで行って、門の上で待っているよ。

だけど、俺流のお出迎えの仕方がある。俺は榎本さんを迎えたら、それでお出迎えは終わり。踵を返して、榎本さんに尻を向け、自分がいた所にサッサと引き返すんだ。「無事に帰って来たな。それでよし」という感じだ。

しかし、多くの猫は、飼い主を迎えた後の行為は、俺とは違う。飼い主の足元に体を巻き付けて、スリスリしたり、喉をゴロゴロ鳴らしたりして、甘えるんだ。露払いを買って出る猫もいるとさ。飼い猫は召使いではないんだぞ。そんなにご機嫌取らなくてもいいじゃないか。俺に言わせれば、軟弱で、何か気持ち悪くて見てられないよ。

俺は他人に甘えるということが絶対にできないんだ。「ツンデレ」の「デレ」は俺にはない。俺はデレデレしない猫なんだ。毅然としていることが快適で気分がいいんだ。そこでいつも辿り着く所が、俺は「ヒマラヤンとチンチラの高貴な両親から生まれた、高貴な猫ではないか」という出自についての執着だ。もしかしたら、王子様だったかもしれないよな。

毅然とした気性、毅然とした態度。俺が一生懸命努力している訳ではない。自然にそうなるんだ。高貴な出であることの証明だよ。きっと。

 

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※本記事は、2021年11月刊行の書籍『おもしろうてやがて悲しき』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。