アドニアはバルにも、行く手で気ままに点在している他の猫や犬たちにもかまうことなく、足早に大通りを進んでいた。今朝はいつものように顔を見合わせて口笛を吹いたり、近寄って額を撫でたりはしなかった。小さな友達と親交を確かめ合うよりも、自分に課せられた使命が何であるのかを把握することが最優先だからだ。

通常でないことは間違いない。朝一番に国王陛下からすぐ出向くようにと電話が鳴るなんて。今まで凡庸な日々しか送ったことのないアドニアは錯乱状態のまま足を進めていたが、心の準備が整う前に丸い屋根の重なる王宮の門前に着いてしまった。

「やあアドニア。こんなに早くどうしたんだ? まさか国王陛下に面会なんて言うんじゃないだろうな」

門番のケニムは、警帽が小さく見せる髭だらけの顔に皺を寄せながら巨大な体の向きを変えた。

「そのまさかなのよ。あたしの聞き間違いじゃなければだけど」

アドニアは両手を振り上げて大袈裟に説明を加え、ケニムは「こいつは驚いた」とウインクしながら重厚な鉄製の観音開き扉の閂を外した。

「この三年で聞いた中じゃあ、一番冴えてるよ」

「ジョークじゃないって。本当の話よ、ケニム。今朝早く電話がかかってきたの。信用できないあなたの立場もわかるけど、このあたしの話は誠実に聞くべきだわ」

「まあ、バーニエールはジョークなんて言えないけどな」

「だからバーニエールじゃないんだって。国王陛下からかかってきたのよ」

「おい……今、国王陛下からって言ったのか?」

「そう」

冗談ではなさそうなアドニアの趣きに、ケニムは扉を片方開く作業を止めて「直々に?」と更に探るように訊いた。

「そうよ。直々によ。理由はわからないけど、とにかく電話ですぐ来るようにって言われたんだから。ねえどうしようケニム。もしかして、もう適性試験受けるのを諦めるように言われるのかな」

アドニアは不安が広がったままの顔でケニムと向き合っている。

「そんなことないだろう……と思いたいが、わからねえな。もう三回も落ちてんだろ」

「まだ二回よ。今年のは、ほんとに惜しかったんだから。来年は絶対合格できるわ。ほんとよ。たぶん……だけど」

ケニムは大きく両手を広げて頷き、今の言葉が現実になることを期待している旨を示した。この怪力と心優しさを併せ持つ大男のにこやかな眼差しは、まあ気軽に行って来な。どんな話か楽しみに待ってるぜ。と言っているかのようだった。

※本記事は、2022年3月刊行の書籍『サンタクロースへの贈りもの』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。