「私にとっては沖田さんという人がこの世にいるという事がすごい意味を持ち、話が出来るなんて今でも夢のようです。貴方は私に胸の痛みを感じさせる人というだけでなく、実は私の理想的男性像でもあるのです。つらいのは、離れて顔が見られなくなるという事、耐えられるでしょうか。

でもやはり、貴方はGへ帰るべきであり、私もするべき事がいっぱいある。ならば道は決まっている。このままで続く限り続かせるという事だけです。一緒に居たい。それだけを貫けるならばと切に思います。しかし誰かを不幸にして何故自分達だけが幸福になれるでしょうか。沖田さんのお父さんの苦しみを無視して勝手に沖田さんを私の方に引っ張る事が出来るでしょうか。私には出来ない。貴方がYに来てくれると言っても私は反対するでしょう。自分がどうなってもやはり人を悲しませる事なんか出来るはずがない。

私達は別れていましょう。それが結論です。仕方がないのです。私と同じように貴方のお父さんもつらいだろうと思います。自分の息子を手放したくなくそばに居てもらいたいという気持は当然です。父上のお体の事も心配です。私さえがまんすれば全て解決する事です」

(41年12月 緒田啓子)

「これからのしばらくの別れの事を考えると身が切られるように僕もつらい。でもそれを少しでも柔らげるために将来の事を約束するとか計画をたてるとかする事は出来ないのでしょうか。あなたの本能が許さないのでしょうか。僕は結婚は仕事と並列に考えているのです。家庭があっての仕事があり、仕事があるから家庭があると思っているのです。人間として生まれてきた以上、結婚して子供を作り、お互いにいたわりあう人を持つのが当り前だと思っているのです。

人間は本来孤独なものです。長い一生、自分一人で歩けるものではないと思っているのです。今を一生懸命生きるのは当然ですが、将来の事をどうしても考えてしまいます。

僕としては本当に自分をぶつけてゆく女性に対しては常に、この人と結婚するんだという気持を持って付き合います。その気持がなければ、純粋に自分を現して行動出来ないのです。だから貴女のように自分の本能を信じて行動出来る人はうらやましいです」

(41年12月 沖田陽一)

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※本記事は、2021年12月刊行の書籍『永久の恋人』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。