第3章 スピンラザ投与前

2 大学受験を目指して

次に示すのは、かけるくんがある大学の推薦入試に提出した「私の夢」という題の小論文です。

「私の夢」

僕は脊髄性筋萎縮症という生まれつきの病気です。この病気は、知的には正常ですが、手足の拘縮や筋力の低下で、歩くことができません。手も動かせますが、あまり思い通りには動かないため、字が読みにくいと思います。

小学校や中学校では、普通の学校に行き、体育以外の授業は普通に受けていました。生物に興味があり、将来は熱帯魚の研究をしたいと思い、高校では学年で3位以内に入るよう頑張って勉強しています。

生物に興味を持ったのは、自宅のそばにあるペットショップの店長が、熱帯魚の繁殖や体色の遺伝などを教えてくれたことがきっかけでした。今、ピラニアを飼っているのですが、2年前に調子が悪くなり、腹を上にして浮かんでしまったことがありました。そのとき、ペットショップの店長のアドバイス通りに薬を投与したら、すっかり元気になりました。

研究なら手足が不自由でもアイディア次第ではほかの人と対等に勝負ができるし、今は分身ロボットや特殊なキーボードなどITの進歩で障害のバリアが低くなりつつあります。今は手足が不自由なことをコンプレックスに思っていますが、大学に入って生物の勉強をしっかりして、生涯に渡ってつきあえる友人をつくり、そのコンプレックスを軽々と超えていけるような大学生活を送りたいです。

『五体不満足』で有名な乙武さんも、特殊な自動車に乗って自動車免許を取得して、車の運転をしていると聞きます。僕は、乙武さんよりは手足が動くので、手足がない乙武さんにできて、僕にできないはずがないと思います。立派な研究をしていれば、トヨタ自動車が特殊な自動車の開発に乗り出してくれるかもしれません。

免許を取って、就職して、自分で税金を払う立派な社会人になって、さらに熱帯魚の研究を極めて、店長みたいに熱帯魚のエキスパートになりたいです。そして、障害があっても夢を諦める必要はないことを、日本全国の障害者の人に伝えたいです。

また、受験勉強と並行して、受験に際しての配慮を申請していかなければなりません。例えば、かけるくんは字を書くことはできますが、筆圧が弱く書くスピードも遅いので、普通の受験者と同じ試験時間では最後まで解くことができません。また、ページをめくったり、解答用紙を動かしたりできないので介助者が必要です。そのため、事前に試験を受けるための準備をして申請をしなくてはいけないのです。

例えば、かけるくんがセンター試験で体や手足の動きが悪いことを示す「肢体不自由(したいふじゆう)」に関する配慮を受けるためには、以下の書類を提出する必要があります。

・平成31年度大学入試センター試験受験上の配慮申請書
・平成31年度大学入試センター試験受験上の配慮出願前申請済届
・診断書(肢体不自由関係)
・状況報告書(試験時間延長1.3倍)

さらに申請するのに必要な相談や確認のスケジュールもタイトで、

①受験案内・受験上の配慮案内の入手及び受験上の配慮についての事前相談
②受験上の配慮の出願前申請
③受験上の配慮事項の確認
④出願
⑤受験上の配慮事項の再確認
⑥受験票に記載された「問い合わせ大学」との打ち合わせ

以上の手続きを8月から12月までに終了して、やっと1月のセンター試験を受けることができます。

※本記事は、2020年4月刊行の書籍『希望の薬「スピンラザ」』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。